サステナビリティの取り組みの一環として、カーボンプライシングや炭素税における世界的な取り決めを進化させることの重要性と、皆様への影響について探求してきましたが、より新しい視点に辿りつきました。新しいNet ゼロ目標を達成するための政策変更により、メーカーやサービス企業がCO2隔離を新たな収益源とすることが、皆様が思っているよりも早く可能になります。世界のCO2削減は長期的な目標ですが、ビジネスチャンスは既に広がりつつあります。
New tool to ensure the construction industry meets its climate change responsibilities.
ではなぜ排出削減ではなく、CO2隔離が注目の的となるのでしょうか? 技術的には可能であるが、少なくとも現在の100倍以上のCO2を隔離しないと経済的には意味がないと、長い間考えられてきました。最新の効果的な政策変更は「CO2削減(カーボンリダクション)」から「カーボン・ニュートラル(気候中立)」への転換です。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を、EU法で法的拘束力ある目標として組み込むことを提案している「欧州グリーンディール(European Green Deal)」構想を例に挙げます。この構想を全力を挙げて支援する新欧州委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は「欧州グリーンディール構想は、ヨーロッパの存在価値としたい」と述べています。マッキンゼー社は、このアプローチがもらたす世界的な隔離産業の規模は、2030年に8,000億ドルを超えると予測しています。
ヨーロッパを超えて、国際航空業界のためのCORSIA(国際航空のカーボンオフセットおよびCO2削減)政策では削減が非常に難しいため、カーボンオフセットによるカーボンニュートラルを推進することが当然の帰結となります。提案されたEU国境CO2調整メカニズムは、生産時に放出されたCO2量に見合った割合で輸入税を課すもので、EU国境外でのカーボンニュートラルを促進することを目的としています。
このカーボンニュートラルへ比重を置く新しい方針により、今までに無かったビジネスチャンスが生まれました。なぜでしょうか?経済学では、1トンのCO2を隔離することも、1トンの排出量を削減することと同じくらい有効であるとの主張が正しいでしょう。実際、カーボンニュートラルを人間からの排出量ということで考えると、CO2のトン数で測定する場合ですが、人類の活動の半分はCO2を隔離し、半分はCO2を排出するということになります(これは世界のGDPの数%以内で実行できることに注意してください)。
CO2方程式における未知数 “需要”
過去10~20年間、政策はほぼ大気中へのCO2排出量を削減することに焦点を当てており、大気からCO2を吸収する“需要”という未知数は見過ごしてきましたが、最近は変化が見られます。国内目標だけでなく輸入品についてのカーボンオフセットも必要となるなど多様な圧力により、CO2排出量削減だけでは目標達成が困難であり、短期的にはCO2隔離がカーボンニュートラルを達成する唯一の方法になります。しばらくすると、CO2隔離を強力な産業として構築できた地域は、パリ協定第6条に記されたメカニズムを通じて、他の地域にCO2隔離を販売するビジネスが可能となるでしょう。
この方針転換によりもたらされた光明は、十分なCO2隔離量があれば、最近の想像を絶するレベルの削減を求める計画によりライフスタイル(主に将来の中国とインドにおいて)を変える必要がないということです。もちろん、私たちはまだ努力を続ける必要があります。非常に困難な削減目標に対して、努力(自発的なものや消費者からの圧力によるもの)を続けている消費者や企業がまだまだ少ないことを考えた時、CO2隔離が現実的な最終目標を達成に導く唯一の方法だと言えるでしょう。
CO2隔離費用を国連が負担する政策枠組み(ボランタリー市場における認証排出削減量許可)は、数十億件が低価格で過剰に許可されていたことで機能していませんでした。何年も前に数多くの中国の水力発電所が、認証排出削減量として認められたことが特に影響しています。認証排出削減量価格が上昇する前にそれらの許可を清算しておく必要がありますが、時間のかかるプロセスとなります。実際、それらは非常に低価格で流通しており、カーボンオフセットを安価にすることで排出量市場を歪めています。そういった中、認証排出削減量制度は、2020年からの次の段階では主取引場所であるEUCO2取引市場では除外されることとなり、中国は今後の国内オフセット市場のために中国独自の認証排出削減量の取り扱い政策を作成しています。
EUのカーボンニュートラル目標を達成するには、認証排出削減量メカニズムを安定したものに置き換える必要があります。その最初のステップとして、2020年6月からCO2回収、エネルギー貯留、低炭素、CO2代替プロジェクトについてのアイデアを公募する、100億ユーロ規模の「低炭素イノベーション基金」が新しく設立されました。
また、フィンランドのPuro.earthのような新しいボランタリー市場もあり、検証済みのCO2隔離技術(建築材料への直接隔離など)は1トン当たり約20ユーロと認証排出削減量よりも高い価格で取引されています。規制が後から付いてきている間に、それらは既にエコシステムのメンバーによって、個人オフセットのサブスクリプションサービスとしてミレニアル世代に販売されています。
エネルギー・電力業界だけではないチャンス
こういった情勢は皆様にとって何を意味するのでしょう? 電力業界は様々なコストレベルで、排煙ガス中の高濃度CO2の回収、輸送、貯蔵方法に明らかに関心を持っています。しかし、新しい隔離がもたらすビジネスチャンスは、エネルギーや電力業界だけではないと確信しています。世界の排出量の7%を占めるセメント市場は、最初に行動を起こす市場の一つでしょう。CO2排出コストがより大きな問題となっているのと同時に削減可能な量が限られ、残されている少ない選択肢の一つは、炭酸化されたレンガのようなCO2濃度が高い材料に切り替え、それに対する補助金が出る仕組みを作ることです。
同様のビジネスチャンスはサプライチェーンの上流にも波及し、輸送、住宅、消費財やサービス、物流など、実際には大量の商品を含むあらゆるもの全てにあると思います。さらに、不動産管理など長期間にわたる資産管理業界においても、CO2排出量が多い顧客であるデータセンターや航空会社など、特に暖房換気空調システムが活躍しているところでのCO2隔離需要が見込まれます。
排出量価格設定は、弊社のお客様でもある製造業にも既に影響を与えています。例えば、電力市場における見えない投入物価格リスクは電力業者を選ぶ要素となり、事業リスクを軽減するため地域内でエネルギーミックスという選択がますます重要になっています。しかし、確立された炭素税とともに、CO2隔離の需要に対し、より多くのCO2を材料に埋め込こむことを可能にするため、産業プロセスを変更することが増えてきています。また様々な企業による革命の波は、CO2隔離を商品のメリットであるとうたい、隔離価格が安定する前にもかかわらず、実行可能な革命であることを証明しています。
Blue Planetはコンクリート材料メーカーですが、廃棄物から取り出しだしたCO2をコーティングした炭酸化レンガを生成する発電所を運営しています。それはCO2が質量の44%にもおよび、コンクリート生産時に使用され、採掘された石灰岩の代替えとされています。Solidiaは、Blue Planetと同様の手法を用いてCO2含有率の高い建築材料を生産しています。Derbigumは、かんらん石を利用した屋根材で降雨時にCO2を吸収する製品群を所有しています。
一方、New Light は、温室効果ガスを使用して炭素繊維強化プラスチックである AirCarbonという製品を創り出し、現在では家具、包装、ファッションテキスタイルの製造に使用されています。Graphenstoneは家庭向けに、壁にCO2を吸収することができる塗料を提供しています。これらの新技術には、フランス政府がセメント業界を対象に行っている政策イニシアチブ “Carbon Inclusion Mechanism” に支援されているものもいくつかあります。
追求すべき実際の削減効果
バイオ炭や製紙産業にも明らかにチャンスがあります。多くの企業が連携して同じCO2測定手法を採用しており、パリ協定の内容とも調和しています。現在スウェーデンにおいて、林業は国のCO2総排出量の9%を隔離していると推定されています。最終的に建物となりCO2排出をすることになるので永続的ではありませんが、伐採できるようになるまでの再生期間と腐敗してCO2を排出するまでのタイムラグがあるため、継続する価値のある削減効果があります。
「永続的な」隔離とは対照的で、より短期的なCO2隔離の価値は、認定という観点では全く異なります。例えば、50年間、または「永続的に」隔離される1トンのオフセット証明書を一度にまとめて50ドルで購入するのではなく、排出者が1年分を1ドルずつ全体で50回分購入します。このように考えていくと、CO2を隔離し続ける場合に限りますが、CO2が豊富な土壌や建物のような高CO2濃度の資源を所有することで、将来的に収益源となるということが分かります。また、大気中のCO2を吸収する技術DAC(Direct Air Capture)は、あまりに多くのエネルギーを必要とし、CO2回収・貯留付きバイオマス発電はあまりに広大な土地を必要とするなど、「救世主的」技術の能力不足のため、削減目標を達成するためには欠かせない短期的(5~10年)なCO2隔離技術をいくつか確立することも重要です。
上記の分割払いの価格設定メカニズムには、その他2つのメリットがあります。植林などは隔離が本当に永続的であるかどうかの懸念があり、長期間の認定をすることの信頼性が常に懸念されてきましたが、短期に分割することで信頼が高まります。また、50年間待って「実績」に対して支払うのではなく、「行動」に対し時間の経過とともに支払われることで経済が回っていきます。これは、ビジネスのスピードを重視する商業界の短期的な視野とより一致します。
将来的には「隔離価格」はコンプライアンスを遵守した既存のボランタリー市場の進化と考えられるでしょう。日常業務で走行中に収集した道路データを活用し、自律走行向けのアルゴリズム開発をする物流会社と同様で、日々のビジネスの中に二次利用可能なチャンスを見つけるでしょう。セメント会社は、炭酸化レンガを供給する中で、より高い排出価格を付けられる方法を見つけるかもしれません。また、広大な敷地を誇る海岸沿いのホテルは、高CO2濃度の湿地または土壌を維持することで利益を得るかもしれません。
新しい隔離産業は驚くべきスペースにも広がっています。日用消費財では、リサイクル、再利用、CO2貯蔵、廃棄物からエネルギーへの転換などの成功と同様に、政策や消費者からの注目は製品や包装材が寿命を迎えたときにどうなるかに集まっています。例えば、石鹸を作る場合、LUSHがスタートアップ企業CleanO2との協業で道を切り拓いたように、炭酸カリウムを廃炭酸ガスから生成されるソーダ灰混合物に切り替えることで、隔離した分を利益とできるかもしれません。
もし大量生産をする企業が原材料の選択を行う場合、もしくは、化学原料を使用したり化学処理を伴う少量生産品の場合でも、原材料の検討においてビジネスメリットが最大の要因になるかもしれません。消費者と緊密に連携し、製品が最終的にどこに行き着くのか、その中の原材料に何が起きかなど、リサイクルチェーン全体に影響を与えコントロールできるよう検討が必要でしょう。建物や織物などのロングライフの商品については、商品の寿命をさらに延ばすことが利益の流れをもたらし、リピート販売の機会損失分を補うことができるでしょう。
では、CO2隔離を物理的にできる製品がないサービス会社の場合はどうでしょうか?他業種と同様に意思決定が隔離に対し影響を及ぼし、投入物価格にも影響してきます。それどころか、データセンターの排出量はオフセットの需要を大きく押し上げるでしょう。経済学においては「神の見えざる手」が自己調節機能となるなら、ファンドまたはベンチャーキャピタルは隔離規模がより大きい企業や地域に投資した方が、より収益性が高くなります。つまり、アイデア次第で早い者勝ちなのです。
CO2隔離の新たな需要
隔離に対する新たな需要を満たすために、多くの企業ではターゲット顧客が変化するでしょう。例えば製薪炭業の場合、バイオ炭を土壌に堆積したい顧客は、他の顧客よりもはるかに高い価格を支払うかもしれないことにお気付きでしょう。土壌にCO2隔離することで何十年にもわたって利益を生みますが、バイオ炭を燃料として使えば、自然と排出税を支払うことになるのです。
建設業における認証排出削減量は、まったく別の世界です。今は悩みの種とされている業界が、解決策の一部となるかもしれません。建っているすべての建物が、潜在的な巨大なCO2貯留スペースなのです。木材や竹などの構造材、ヘンプクリートやセルロース繊維などの断熱材、麻壁、ウッドファイバー外壁、エクステリア用のかんらん石など全てがもっと活かされます。植林直後から始まる生物学的隔離と、数十年後に収穫される木材から排出が始まるまでの重要なタイムラグを捉えるためには、半減期モデリングに焦点を当てた測定手法とモニタリングシステムを進化させる必要があります。
未来の話は十分にしてきましたので、今何をすべきかに話を移しましょう。弊社は隔離価格設定の製品設計に対する影響を見える化するモデリングを注力テーマとし、新たな原材料を開発中の合成バイオ企業との協業を進めています。CO2関連費用を検証するための新しいモニタリングシステムに必要なセンサーとデータの要件や、サステナビリティを考慮した製品設計を基本原則とした場合の示唆を検討しています。
また、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)、カーボンフットプリント制度のCarbon Trust社、 Carbon Pulse社、Redshaw Adviser社、Puro.earth社などの方針策定に関わり、公表されている経済予測を深堀りする調査やコンサルティングを提供しています。製品のCO2隔離をモデリングするためのオンラインツールだけでなく、炭素循環社会で成功する方法についての解説を近く発表する予定ですので、是非ご期待ください。また、スタートアップ企業においても大手企業においても、CO2隔離関連製品やサービスのビジネス機会の再検討をすべきだと考えています。CO2隔離製品をビジネス戦略に組み込むのはまだ遅くありません。競合他社より先手を打ちましょう。
執筆者:
ジョン エッジコム
産業&コンシューマ事業本部
電子・ ソフトウェアグループ
グループリーダー
デジタルセキュリティ、ソフトウェア、システムアーキテクチャ分野が専門。大手企業からスタートアップに至るまで革新的なプロジェクトに従事し、コンシューマー、セキュリティ、医療、ロジスティクス、ワイヤレスなど様々な業界向けに、最先端のコンセプト創造から市場投入までを分野横断的に支援している。