バーチャルリアリティ(VR)がゲームの世界から卒業し、画期的なイノベーションの重要な要素となる時が到来したようです。既に、エンジニア、建築家、デザイナー、そして不動産業者までもがVRを利用した視覚化を活用しています。しかし、VRの一面のである人間の行動を研究可能な没入型の仮想体験は、あまり広く利用されていません。良いニュースですが、ケンブリッジコンサルタンツはこの件に積極的に取り組んでいます。 

レベル3(L3)の自動運転の人間工学研究に使用される特注のVRドライビングシミュレータは、行動学的知見を得るために開発されました。人間の行動をより深く知ることで、L3の価値が高まると私たちは考えています。例えば、ドライバーが突然のハンドル引継ぎをどの程度できるかどうかを調べることで、実証的に安全で有用なL3システムが構築可能かを判断することができます。

まず、最初にL3の難しい立ち位置についての背景を説明します。このレベルでは、高速道路や駐車場などの特定の運転領域で自律走行モードにすることができます。しかし、自動運転をしている間のドライバーは、ハンドルを再び引継ぐことを要求された場合その要求に対し反応することが求められます。このため、ドライバーは運転中のほとんどで積極的に車両を運転することを期待されていないのにもかかわらず、最終的な安全責任を負わされるという、厄介な立場に立たされているのです。 

もし、既に提言されている自律運転の利点が運転の安全性の向上や作業時間の短縮に繋がっているのだとすると、L3はドライバーにどれほどの利点をもたらすのかが問題の核心でしょう。おそらく、ほとんど利点はないでしょう。このことから、半自動運転のソリューション開発は時間の無駄で人命を奪う可能性まである、と推測する声もあります。しかしながら、ヨーロッパでは、L3を使用した自動運転を可能にする規制の変更が検討されています。 

業界の分裂  

この10年、自動車分野にはWaymo、Baidu Apollo、Uber、Ponly.aiなどのハイテク企業が参入し始めました。これらの企業は、多くの場合ベンチャーキャピタルから資金提供を受けていてL4自律性を確立し、タクシー、長距離運送、そしてラストワンマイル輸送の自動化を実現しようとしています。しかし、ほとんどの場合、これらの企業は自動車製造には投資しておらず、量産車に高価で嵩ばるセンサースイートやコンピューターを搭載させることを狙っています。このコストは、自動車の耐久年数と比べて人間のドライバーに支払う人件費より少なければなりません。

しかし、自動車メーカーにとっての経済的推進力はこれと異なり、人工知能やデジタルサービスではなく、車両の設計や製造に関する専門性こそが価値の源なのです。このため、収益性を維持するためには自動車を大量に販売し続けなければならず、自動運転するタクシーによる個人所有の減少は彼らの懐を脅かすことになります。  

費用対効果や見た目が良い車を生産するためにL2からL4へ移行することは、経済的なハードルが高く技術の反復開発もできなくなります。OEMにとってL3は高度な自動化に向けた技術進歩の一部にあたり、ビジネスにとって非常に重要な要素となります。よって、自動車メーカーは顧客に自家用車の購入を促すために安全性や利便性を向上する技術を付け加え、すぐ路上で使用できる状態のものを作るために競争しなければならないのです。L3への進展を支持する声をあげている企業の中には、アウディ(市場初のL3システムを放棄せざるを得なかった)、テスラBMWなどがあります。 

L3用のVRドライビングシミュレーター 

さて、話をL3のVRシミュレーターに戻しましょう。シミュレーションで行われた試験は実生活で行われたものに勝ることはありません。しかし、実施したい試験が実生活では危険すぎたり、費用が嵩みすぎたりする場合はどうでしょうか。危険な運転シナリオでの人間の行動を研究する場合、VRを使えば被験者にリスクを与えることなくシミュレーションで運転を観測することができます。ゲーム業界の成長に牽引されたVRヘッドセットは、本物そっくりの仮想世界をリアルタイムで表示することができます。そして、仮想世界はこれまで以上に迅速かつ低コストで創造することができます。このため、行動研究においてVRでの試験は貴重な材料になり、開発の早期段階から人間の行動に配慮した設計を心がけることができるようになりました。 

L3自律性におけるハンドル引継ぎに関する疑問に答えるため、私たちはVRを用いた実証実験型研究プラットフォームを開発しました。私たちのドライビングシミュレーターでは、被験者は都市環境で自律走行し、基本的な交通シミュレーションが実装されている他の車と共に走行します。運転中に様々なシナリオが発生し、ドライバーはハンドルを引き継ぐよう要求されます。  

道路工事により複雑なレイアウトになった場合の予期せぬ変更や、人が道路に飛び出して緊急停止を余儀なくされた場合など、シナリオは様々です。そして、私たちはドライバーがどのように状況に対応しているかを観察します。ドライバーのパフォーマンス比較は、ずっと自分で運転していた場合のパフォーマンスと突然ハンドルを引き継がなければならなかった場合で比較し、どちらがより運転の質の低下や事故につながるかどうかを判断することができます。  

L3自律走行中に発生した緊急事態によって、自動車メーカーがむやみにドライバーへハンドルを引継がせるようなシステムにすることを意図しているとは思えません。歩行者が道路に踏み込んだ場合、L3アルゴリズムの一部である歩行者検知システムが処理します。緊急時のテストシナリオでは、自動車がL3アルゴリズムの運用領域を外れ、ドライバーが対処しなければならないような緊急事態が発生した直後、制御されたハンドルの引継ぎが行われることを想定しています。要するに、事故の直前に自動運転をしていたことで、ドライバーの質が悪くなるのかどうかを評価しています。 

シミュレーションから、車の加速度や速度、歩行者や他の車両との接近度合いを抽出し、パフォーマンス指標を作成します。また、VRヘッドセットの視線追跡により、ドライバーがドライブ中にどの時点でどの物体を見ていたかを特定することもできます。初期の結果で興味深いのは、注視方向のパターンによって何も起こさずに引継ぎできる状態を高精度に予測できることを示唆していることです。

VRを活用したデザイン 

また、高価なプロトタイプを作らなくても、VRで早期にデータ収集することが可能になります。例えば、ドライバーとのコミュニケーションを迅速かつ直感的に行うことができるヒューマンマシンインターフェースの開発に役立てることができます。 

私たちは、自動車がドライバーに運転を引き継ぐ際のコミュニケーションをより良くする方法の探求をしてきました。警告の種類によっては、パニック反応を引き起こし、人間の注意力を低下させてしまいます。また、他の種類の警告は、一般的には無視されます。運転支援システムの場合、どのようなオーディオビジュアルアラートが適切で、その警告にはどのような情報が含まれるべきなのでしょうか。まず、ドライバーの認知負荷を最小限に抑えるため、警告は車両が検知した危険性や、取るべき行動を明確にしなければなりません。   

加えて、車の購入する際のバリュープロポジションの重要な部分は、多くの場合「運転を楽しめる」ことです。したがって、本技術がこの要素を損なわないようにすることが重要です。これは、試設計の迅速な反復が可能になれば実現できるかもしれません。 

私たちは、自動車設計のための人間行動研究において、VRが果たす役割はますます大きくなると予想しています。VRは、人間の行動が重要で、実物的なプロトタイピングが高コストであったり、実生活でのユーザー試験が危険であったりするようなシステムを開発する際の重要なツールです。  

ケンブリッジコンサルタンツでは、オンロード、オフロード(農業、鉱業)自動化システムで使用可能な仮想学習環境の構築やセンサー入力のシミュレーションのためのツールや専門知識を発展させています。これらのツールは、実世界でのデータを収集する前段階の人工知能アルゴリズムの開発や検証に使用することができます。VRでの作業はこれを補完し、プロジェクト開発の初期段階から人間の行動を考慮することを可能にしています。弊社が有する専門性で、大きなポテンシャルを秘めた自律性をお客様のビジネスでどのようにして役立てるのか、お手伝いができれば幸いです。なお、モビリティテクノロジーにおける弊社の取り組みについては、こちらをご覧ください。 

 

執筆者:

ジェームス アーモンド

アルゴリズム シニア開発者 

アルゴリズム開発者であり、弊社の応用科学グループに所属。クライアントと協力しながら、自動車や産業分野の様々な課題に対しAIや物理学に基づくソリューションの構築や開発に従事。 

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執筆者
James Almond
Senior Algorithm Developer