培養肉などの培養食料を開発する企業は、その規模を拡大する各段階で、技術面でも資金面でも困難に直面します。実験室レベルからパイロット生産、そして大規模生産へとプロセスの規模を段階的に拡張するにあたり、細胞の増殖と分化のプロセス性能を予測することは、費用が増大し確実性に欠けます。各段階でプラントの設備への投資規模は指数的に増大し、開発や最適化用途の培養に必要な培地の規模もまた同様に増大します。

培養プロセスの規模を拡張すると、流体混合、気体輸送、組織破壊につながる乱流エネルギー散逸や層間せん断などの主要なプロセス挙動の特性が根本的に変化することがあります。このような予測が困難な変化への生体の反応は、良くて非線形、悪ければカオスです。こうしたことは全て、投資リスクが不当なほど高く、確実性は低くなり、研究開発者や投資家には全く好まれない状況につながります。

バイオプロセス技術における課題

こういったことから、バイオプロセス技術において鍵となる問いは、資本投資や開発コストに賭ける判断にあたって諸々のプロセスの振舞いについての知見を得ようとする場合、培養タンパク質のベンチャーはどう行動すべきか、というものです。GFIでは、大規模なこうしたプロセスの挙動をコンピューターで計算できる良いモデルを作成する能力を、細胞農業の最重要事項と位置づけ、Cultured Meat Modelling Consortiumからいくつかのプロジェクトに資金提供して、この課題に対応しています。

私たちケンブリッジコンサルタンツのメンバーも、生体の挙動、熱伝達、物質移動、流体力学を組み合わせた高度な予測モデル、すなわちデジタルツインが、規模を拡大する際に起こりうる問題の解決につながりうると考えています。その生物流体デジタルツインは、次のような能力を備えます。

  • 幅広い操作、幾何学、流体空間パラメータについてのプロセス挙動について素早く知見が得られる

  • 「仮想」センサーを使用可能

  • 上記の組み合わせで制御方策をテストし、最終的には安定度の高いモデルベース制御を可能とする

投資判断の材料としてのプロセス挙動の研究

生物に関するエンジニアリングは、決して単純なものではありません。培養肉のプロセス挙動には、培地組成、エアレーション、撹拌速度など、無数の変数が影響を及ぼします。その広範なデザインスペースの全域にわたる規模に応じたプロセスの反応を理解しようとしても、プラントの仕様のようなパラメーターの変更を試すのは非常に高価であるので、経済的な合理性からかけ離れています。

比較的コストの低い研究室での実験や熱流体物理で得られる実データを用いてトレーニングしたデジタルツインを使用すれば、はるかに安価にデザインスペース内を探索できます。この例として、バイオリアクターの動作条件やサイズを変動させて、局所体積酸素質量移動係数(KLA)、粘性による散逸エネルギー、対応する出芽酵母のバイオマス局所成長率についての知見を得るために、デジタルツインのトレーニングを行ってみました。

以下に示すアニメーションでは、インペラ周辺の細胞損傷領域(左)と局所酸素移動係数(KLA、右)を、インペラの翼先端速度(上)と培地の粘性(下)を変動させて示したものです。

追加コストなく予測精度を向上

培養タンパク質のバイオプロセス制御には、センサーによる酸素、ブドウ糖、乳酸の溶融量など、プロセスの変数を詳細にモニターすることが必要です。しかし、プロセスの規模が拡大すると、リアクター内でのこれらの変数のばらつきが拡大します。この問題には、単純にセンサーの数を増やすことで対応できますが、経済的な限界があります。デジタルツインでは、仮想センサーを作成することにより、この問題を解消できます。先の例で作成したデジタルツインを使用すると、バイオリアクター中の酸素やブドウ糖の溶融量やバイオマスの成長度を推論することができます。

生産量の最大化と問題の早期発見

細胞培養のバイオプロセスは本質的に複雑で非線形であるためシステム挙動の予測や制御は困難です。多変量間の相互作用、代謝変動、空間分布などはどれも、エンジニアリングでの制御問題を難しくする要因となります。

デジタルツインであれば、システムの動的縮約モデルのように使用して、一般的なフィードバック制御の原則に従って改善を行い、これらの問題を解消することが可能です。このアプローチでは、一般的な閉ループフィードバックのアプローチで見られる不安定性やレスポンスが遅いという問題を抑えることができます。

構築したデジタルツインで実施可能なアプローチですが、実際のバイオプロセスでの試験と検証は必要になります。さらに得られるメリットとしては、細胞培養における想定外の条件、たとえば汚染による酸素消費速度の上昇などを検出可能です。

消費者目線での収益性向上

ケンブリッジコンサルタンツでは、ここで示したようなアプローチが、培養タンパク製品の生産上の重要な課題の解決につながると考えています。バイオ技術の実用化の未来を考えれば、このアプローチをさらに展開し、デジタルツインの一部として揮発性代謝、タンパク質、脂質の発生を考慮することで、製品の味や食感を改善できる可能性があります。そうすれば培養タンパク質に関わる企業は、実現性があり持続可能なビジネスモデルの中で、より良い顧客体験を構築することがができるでしょう。

しかしその中では、大きな課題に直面することになるはずです。それは要求される品質と安全性を確保しつつ、現実的なビジネスモデルで最終製品を作り上げる事業的な必要性です。それに留まらず、バイオ由来の食料は消費者に受け入れられると同時に、サステナビリティ面の要求も満たす形で食卓に届けることが必要です。バイオプロセスエンジニアリングへの革新的なアプローチを検討されていて、当社のサービスについてご興味のある方は、ぜひススティーブ トーマスジェームズ ウェストリーまでメールでご連絡ください。お待ちしています。

Author
スティーブ トーマス
産業&コンシューマ事業本部 応用科学G シニアコンサルタント

応用科学グループに所属するシニアコンサルタントであり、化学と材料化学の製品開発やシステムエンジニアリングへの統合に従事している。

Author
ジェームズ ウェストリー
産業&コンシューマ事業本部 機械工学・設計G グループリーダー

ケンブリッジコンサルタンツの機械工学・製品設計部門のリーダーであり、物理学の基本原理と最先端のモデリング技術を活用した製品開発とシステム・エンジニアリングの高度化に注力している。