「消費者には選択の余地がない。」やや大袈裟に聞こえるかもしれませんが、前例のない苦境にある現状を表していることは間違いありません。長年に渡り、消費者の選択こそが流通業界の指針でしたが、感染症対策により、消費者は生活必需品を除く全てをオンラインで購入する以外の選択肢を失ってしまいました。

以前、コロナ渦における技術開発のあり方についてまとめた パンデミック後の革新的な世界への対応策を具体化の中で、「仕事」「健康」「レジャー」に加えて「流通」を4つの重要分野として取り上げましたが、今後流通業の未来はどうなるのでしょうか?消費財メーカーは、従来の流通チャネルではなく消費者とのデジタルによるコミュニケーションを重要視する未来が、パンデミックにより示唆されました。

パンデミックの状況が改善されるにつれ、私達の生活はかつてノーマルと言われていたものに近づきつつあります。以前はオンラインショッピングの利用経験は人によって様々でしたが、パンデミックによって半ば強制的に始まった新たな習慣のほとんどは、すべての人が今後も続けていくこととなり、パンデミック以前よりもオンライン化が進むでしょう。ますます加速されるパーソナライゼーショントレンドと、既に始まっていたEコマースの成長により、デジタルを通じた消費者とのコミュニケーションは、すべての消費財メーカーにとって極めて重要になるでしょう。

現在、新型コロナウイルス感染症は流通チャネルに大きな影響を及ぼしています。実店舗での販売が苦しくなり、オンライン販売に活路を見出そうとしています ビジネスインサイダーによると、地球人口の3分の1は感染対策による何らかの行動制限を受けており、実際に IMRGのデータによると、2020年4月第1週のイギリスにおけるオンライン小売販売は対前年比22%増加しています。特定の分野での増加が顕著で、化粧品や美容用品のオンライン売り上げは対前年比140%、電気製品は90%、そして家庭・ガーデンニング用品は70%と大きく増加しました。

米国とカナダでは、更に驚くべき数字となりました。 Emarsys/GoodData tracker の調査によると、実店舗も構えている小売チェーンへのオンライン注文は2020年3月22日~4月4日の2週間に対前年比56%も増加し、オンライン専業ショップにおいては52%増加しました。

パーソナライズされた顧客エンゲージメント

オンラインショッピングの急成長は、コロナ渦前からのトレンドの延長線上にあるものに過ぎず、少し前倒しになっただけだと改めて強調しておきます。問題は、消費財メーカーが今後どう対応すべきかということです。全てオンラインでの販売に移行してしまうのは、消費者が製品を実際に手に取ることができなくなる上、超大手メーカー等との価格競争にさらされるリスクがあります。そのため、パーソナライズされた顧客エンゲージメントを軸としたサービスモデルに切り替えることが、ひとつの答えかもしれません。消費者が実店舗に足を運べなくなった今、サービスモデルは成長が見込まれる分野で、カスタマーエクスペリエンスを高めるチャンスとなります。

新たなデジタル分野で成功を収めるため、消費財メーカーはコロナ禍の現状から何を学ぶべきでしょうか?まず必要なことは、効率的なEコマース及びデジタルを介した顧客エンゲージメントを実現するプラットフォームの構築です。ファストファッション大手 Primark UKは、コスト低減を優先させるために実店舗販売のみにフォーカスしていますが、消費者がオンラインショッピングに目を向ける今、有効な戦略なのでしょうか?

消費財メーカーにとって喫緊の課題は、全体的な製品ポートフォリオを洗練し、いかに重要な体験価値につなげられるかです。差別化の手段として「製品を売る」から「サービスを提供する」という新たなビジネスモデルへの転換は、顧客生涯価値や顧客維持の観点からも魅力的で、そういった意味でも重要だと考えます。商品やサービスの パーソナライゼーションは、ブランド力を向上させ、競争力を高める大きなチャンスをもたらすのです。

しかし、サービスモデルには歯ごたえのある難問があります。デジタルの世界はより複雑で、消費者個々人に提供するサービス向けの実用最小限の製品(MVP)は、従来の既製品より遥かに頻繁な顧客エンゲージメントが求められます。サービス提案が適切であり続けるためには、スマートシンキングが必要です。顧客との継続的なやり取りから得られた洞察を、顧客との関係強化やサービス改善に活かすには、どうすれば良いのでしょうか?

不可欠な技術イノベーション

課題を乗り越え、新たなオンライン流通市場で成功するには、技術イノベーションが不可欠です。例えば、マシンビジョンなど最先端のセンサー技術が収集するデータは、リアルタイムのサービス改善を可能とするでしょう。 説明可能なAIは単なるデータ分析だけではなく、より濃厚な顧客エンゲージメントを実現します。エッジAIの応答性が高まると「自然な」やり取りが可能となり、人間と話している様なユーザーインターフェースを実現することができるのです。

安価なセンサーによるデータ分析と拡張現実を組み合わせ、ユーザーへの説明の際にフィードバックを提供し続けることで、オンラインマニュアルや、店舗でのトレーニングでは不可能だったレベルの顧客体験を実現することができます。更に、専門家やキュレーターとの繋がりを組み合わせることで、より高いレベルの顧客体験が提供可能となるのです。

製剤製品の場合、緊密にデジタルと統合された機構部品が、パーソナライズされた価値の提供に重要な役割を果たします。量や組成をノズルで精密にコントロール、サービス向上のためのデータ収集、そしてメーカーと消費者が交流するタッチポイントを提供するでしょう。

よりスピーディーかつより良い改善のために 

AIは顧客エンゲージメントを加速させ、サービスを改善したいメーカーにとって大きな役割を果たすと考えます。トレンドの発掘、サービスモデルの強化、競争力の維持・向上、更には製品改善の提案など、AIは幅広く活用されていくでしょう。

新型コロナウイルス感染症が、差別化戦略の一環として、最新技術の採用を加速させるきっかけとなったと言っても過言ではありません。重要なのは、得られた洞察を単なるデータとするだけでなく、体験価値を高めるために活用する方法を見出すことです。技術イノベーションは、市場シェアと地位を維持する唯一の手段なのです。

新型コロナウイルス感染症は、課題を提示するだけでなく、かつてない程深く顧客と関わり合い、将来の価値を構築することでビジネスチャンスを掴む契機をもたらしていると思います。

ケンブリッジコンサルタンツは、コロナ渦でますます注目されることとなった技術イノベーション創出のため、お客様との連携や社内コラボレーションに努めています。本件に関しご意見やご質問などがございましたら、こちらまでご連絡ください。

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執筆者
ロビン フェラビー
ビジネスマネージャー / コンシューマ製品事業本部

お客様のブランドにより一層の価値を見出し、新たな市場への進出と付加価値の高いビジネス創出の支援に従事。