世界をよりサステナブルにすることは、誰しもが道徳上正しいと思っているはずです。物を使い捨てし続けるわけにはいきませんが、医療機器など心身の健康や生活に直接影響を与える製品も同様に、サステナブルな製品開発を求めるべきなのでしょうか?

私は求めるべきだと思います。理想的には、あらゆる製品が再生可能な素材から作られるべきで、それは廃棄物を再利用する循環型のサプライチェーンにより実現できるでしょう。医療機器分野において環境負荷を減らすには、後程触れる多くの障壁が存在します。コンセプト創造からユーザーが実際にデバイスを使う段階に至るまで、すべてのプロセスにおいて大胆な対応策を考慮することで、従来の常識にとらわれないより良い製品開発が可能となります。

吸入器のサステナビリティに関する記事は

では、先述した障壁について詳しく説明します。ドラッグデリバリーデバイスは、処方薬を患者への安全かつ効果的な投与を保証するために設けられた厳しい法規制をクリアしなければなりません。また、デバイスは頑丈で保証期間内は正常に動作することが求められます。さらに、患者が最小限のトレーニングでデバイスを使用できるよう、シンプルで使いやすいインターフェースである必要があります。

デバイスの素材は、薬品との接触面や患者との生体適合性、無菌性、化学物質の浸出が無いなど、厳密に検査・承認されたメディカルグレードのものに限定されます。そういった意味では、デバイス設計において、リサイクルされた素材は選択肢ではなく、限定された素材のみが唯一の選択肢となるのです。同時に、価格に敏感な市場において最小限のコストで全ての要件を満たす必要があります。

限界を超えて

障壁はあるものの、ドラッグデリバリーデバイスの環境負荷は低減できますし、するべきなのです。そのためには、デザイン、構造の決定、素材選択など、開発プロセス全体を通して設計の大幅な見直しが必要で、設計、革新的な素材、そして技術の限界を超えなければなりません。また、ビジネスモデルの再構築も必要で、デバイスの使用方法について患者に使い捨てについて考えを変えてもらう啓蒙活動も必要です。

メーカーはデバイス開発の全段階で、イノベーションと推進する他の項目と同様に環境負荷を考慮する必要があります。サイズ、重量、機能、エネルギー効率の高い製造方法、部品の設計に加えて、デバイスの寿命を延ばすことなど、様々な方法が考えられます。環境負荷を話題にし続けることで、世間の関心を高めることもできます。ライフサイクル分析(LCA / Life Cycle Analysis)のようなツールを組み込んだ開発プロセスにより、設計や素材それぞれの選択肢を比較し、開発の初期段階で十分な情報に基づいた意思決定を行うことが可能です。最終的には、デバイス設計と商品原価(COGS / cost of goods)に対してもメリットをもたらします。

薬品と接触する部分に使用できる素材の選択肢は少ないですが、ケース外側などそれ以外のクリティカルではない部分に新しいバイオ素材を採用することは可能です。デバイスの寿命を最大限延ばすことも有効です。 また、デバイスそのもの以外にも梱包、取扱説明書、輸送容器、製造場所などにも、地球への影響だけでなく、関連する全体の売上原価を削減できる要素があります。

殆どのデバイスでは、コストを最小限に抑え、製造工程を最適化し、特定有害物質使用制限指令(RoHS / Restrictions of Hazardous Substance)や廃電気電子機器指令(WEEE / Waste Electrical and Electronic Equipment)を遵守するため、上記に挙げた事柄を既に実行しています。しかし、開発プロセスの全てにおいてサステナビリティ基準を組み込めば、設計を様々な方法で最適化しながら環境負荷を減らすことができます。

利用方法の変革

将来的には、デバイス全てを丸々廃棄しないことや、リサイクル方法を確立することで、デバイスの利用方法を変えていくことができるはずです。ドラッグデリバリーデバイスのビジネスモデルを再考し、デバイス売り切りモデルからデバイス回収モデルへと変えることが可能かもしれません。予防薬の吸入器などのデバイスは、長期間の使用に耐えられるよう設計された部品を洗浄し再利用したり、また薬品は患者自身や製造メーカーによって再補充できるようになるのでしょうか?デバイス設計は、洗浄、滅菌、再利用可能なモジュラーに分割できます。緩和剤吸入器のような使用頻度の少ないデバイスでは、設計でできることは少ないですが、廃棄物を必要最小限に抑えることはできます。

サプライチェーン全体の環境負荷を低減するためには、メディカルグレードの素材開発に投資し、再利用資源やバイオ資源などサステイナブルな選択肢を広げる必要があります。理想は、未来を見据えて、生産・使用・再利用の循環を今始めることです。サスティナブルな未来への旅は、そこから始まると考えます。本記事に関しご意見やご質問などがございましたら、こちらまでご連絡ください。

Author
マット・ガーウッド
シニアコンサルタント

メディカルテクノロジー事業本部シニアコンサルタントとして、吸入器を中心とした医療機器開発に20年以上携わる。世界がサステナブルな生活スタイルが求められるにつれ、今後の製品開発においても重要な要素であると強く認識しつつ、お客様が十分な情報に基づいた意思決定を行うことへの支援に尽力している。