2015年半ば、ケンブリッジコンサルタンツは図らずも世界で初めて市販された家庭用新型コロナウイルス検査キットの開発プロジェクトに着手していました。当時は新型コロナウイルスは知られていませんでしたが、それから何年か経った現在、 FDAより緊急使用許可を取得した本製品で、症状の有無にかかわらず、処方箋なしで2歳以上の誰しもが家庭で検査できるようになったというニュースを聞き、大変喜ばしく思っています。

家庭ですぐに結果が分かる新型コロナウイルス抗原検査キットは、使い古された言葉ですが、まさにゲームチェンジャーと言えるでしょう。デジタル診断を手掛けるEllume社が開発した本製品は、世界的なパンデミックの中で発表され、米国での感染拡大の抑制や、仕事、学校、旅行など、安全な日常生活の回復への貢献が期待されています。そして本製品の実現は、弊社のコアセンシング技術無しでは実現できなかったでしょう。

システム設計、光物理学、光工学を専門とするシニアコンサルタントとして、私は他のプロジェクトチームメンバーと共に、プロジェクト初期段階からEllume社の創設者兼マネージングディレクターのSean Parsons博士とのミーティングに参加しました。救命救急やICUでの経験を持った医師でもある彼は、インフルエンザなどの感染症をより速く、より簡単に、そしてより正確に診断する方法を確立することを使命とし、オーストラリアでベンチャー企業を設立しました。

弊社はグローバルかつ様々な分野に精通したエキスパートでプロジェクトチームを構成し、Ellume社と共にプロジェクトを開始しました。当初のゴールは、処方箋なしで購入可能な(over-the-counter / OTC)インフルエンザ迅速検査キット(rapid flue test / RFT)を開発することでしたが、加えて、陽性結果に基づいて抗ウイルス薬をすぐに購入できる体制作りや、パンデミックが起こった場合にモニタリングデータを提供することもゴールとしました。パンデミックの脅威を懸念し、OTC診断薬の必要性を感じていたParsons博士は、先見の明に長けていたことになります。

超高感度オプトエレクトロニクス検出

インフルエンザに焦点を当てたプロジェクトの中で、超高感度オプトエレクトロニクス検出システムをベースとした、非常に重要なブレイクスルーとなるコアセンシング技術を開発しました。家庭用新型コロナウイルス検査キットでは、このブレイクスルー技術に量子ドット蛍光粒子を使用するEllume社のスーパーチャージ蛍光性イムノクロマト法の技術を組み合わせることにより、世界トップレベルの感度と特異度を実現しています。

FDAの承認に伴いメディアのインタビューが増えていく中、Parsons博士は「プロジェクトの初期にケンブリッジコンサルタンツの才気がなければ、本検査キットは今日実現していなかったことでしょう。」と弊社のオプトエレクトロニクス設計能力に敬意を表してくださいました。

大変な賛辞であると感じると共に、私たちもParsons博士に感謝を申し上げたいと思っています。博士はポジティブな変化を情熱的に唱え続け、先見の明を持って弊社をパートナーとして選んでくださいました。本プロジェクトは開始当初から、Parsons博士やEllume社の分析チームリーダーであるScott Fry博士との強固な信頼関係に基づく協力体制が築かれていました。プロジェクト初期、過去のラテラルフローイムノアッセイ開発の経験を活かし、個別のパワーポイントでのプレゼンテーションよりも、ホワイトボードを介して直接アイデアを交換し合う手法を取るなどし、工夫を凝らしたのです。

Ellume社は基本的なアイデアとして、鼻水の採取を容易にする折り畳み式のフラップを備える仕組みは異なるものの、デジタル妊娠検査キットと同様のラテラルフローアッセイを考えていました。主な課題は、読み取り、信号伝達、分析(Ellume社担当)、光学、電子回路、アルゴリズムから流体機械設計に至るまで多岐に渡り、また、課題である使い易さ、光学モジュール・ケース・機能部品について製造性や製造原価を考慮した設計が必要でした。

低価格かつ高性能

挑戦が多い開発プロジェクトは、必ずしも意図した通りに進むとは限りません。今回も独自の検体採取方法に問題が発生し、当初のRFTプログラムは方向転換を余儀なくされました。プロジェクトを前進させるべく、製品をポイント・オブ・ケア読取部とカートリッジに仕様変更するという解決策を提案しました。製品のコアである読取部と分析機能だけでも、低価格かつ高性能な製品となると考えたからです。旅のルートは大幅に変更されましたが、コア技術は家庭での新型コロナウイルス検査など、幅広い目的に応用可能な汎用性の高いプラットフォームとなり、Parsons博士の信念でもある「ポジティブな変化」に合致しています。

Ellume社の家庭用新型コロナウイルス検査キットには、中鼻甲介での検体採取用の滅菌済み綿棒と、Bluetooth®でスマートフォンアプリに接続された分析装置が含まれています。米国の第三者機関による臨床研究では、本検査キットは緊急使用許可を取得した分子診断と比べて 96%の精度を実証しました

弊社の超高感度光学技術、フロントエンドエレクトロニクス、コアの測定用ソフトウェア、システム設計、検体の感知から診断結果の表示までを一気通貫で可能にした信号伝達、これら全てを応用して開発された家庭用検査キットが、パンデミックからの脱却を目指す米国での重要なサポートとなり得たことは、非常に喜ばしいことです。Parsons博士は、パンデミックの際は家庭用診断キットは非常に有用であると常日頃考えていました。それが現実となるとは、想像だにしませんでしたが。

今後も、広範な新型コロナウイルス検査は間違いなく必要となるでしょう。それ以上に、パンデミックに対応できる効果的なインフラが無いまま、更なる感染拡大のリスクを招いてはいけないのです。少なくとも、この変化は永続的なものとなるでしょう。新型コロナウイルスの出現前、Ellume社はQIAGEN N.V.社と提携し、感染症において世界最大の死亡原因である結核の診断方法を開発しました。個人的な見解ですが、Ellume社のプラットフォーム技術は、家庭だけでなく様々な検査で使える可能性があると思います。

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Author
マイク ヘイゼル
アソシエイトディレクター / 医療技術部

診断およびライフサイエンス分野での生化学分析に必要な、高性能で費用対効果の高い測定システムの開発を専門とする物理学者。大量生産されるコンシューマー向け診断キットから最先端のラボ用プラットフォームにいたるまで、功績は多岐に渡る。 

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