『WFH(Work From Home / 在宅勤務)』は今やお馴染みの言葉となりました。しかしパンデミックが起こる前から、リモートワークは増加傾向にありました。2019年には英国における従業員の約5%が主に在宅で仕事をしており、30%は在宅勤務を経験しています。リモートワークのメリットとして、生産的な作業時間の増加、オフィスでありがちな仕事を中断する割り込みの減少、柔軟性の向上などが挙げられます。スタンフォード大学が2017年に行なった研究では、リモートワーカーの生産性はオフィスで働くスタッフと比べて13%向上していると示しています。 

スマートフォンの導入やソーシャルメディアの普及などにより、人と人はこれまで以上に繋がりやすくなり、物理的位置はもはや必ずしも必要では無くなりつつあります。しかし、これによって犠牲となるものは一体何でしょうか?多くの研究では、デジタルの世界が孤立感を増大させ、結果的にメンタルヘルスに悪影響を及ぼすと報告しています。『健康(ウエルネス)』は、『仕事』、『流通』、『レジャー』と共に新型コロナウイルス対応策の4つの柱の1つで、ケンブリッジコンサルタンツはお客様やパートナー、そしてコミュニティに利益をもたらす戦略的なフレームワークの構築に取り組んでいます。 

『健康(ウエルネス)』はオフィスとそれ以外の場所で、パンデミックによりどの様な影響を受けるのでしょうか?また、人間が必要とするサポートを提供する為に、テクノロジーはどのような役割を果たすのでしょうか?そして、従業員が『ニューノーマル(新常態)』の中で生産性が高く充実した仕事を行えるようにするには、何をすれば良いのでしょうか?パンデミックにより変化した労働習慣は、ロックダウンが解除される際に新たなチャンスをもたらす可能性があります。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の調査によると、英国企業の半数が、支障がない業務は継続的にリモートワークを選択肢とする予定です。 

個々人の繋がりは必要不可欠  

まず第一に、人との繋がりは必要不可欠ですが、それはテレビ会議ソリューションに欠けている重要な要素です。会議中、参加者全員があなたを何時間も直視している光景はとても不自然です。アメリカ心理学会の関係者によると、直接の面会よりも、テレビ会議の方が個々人の表情を読み取るには集中力と気力が必要だと考えられています。「Zoom疲労」ともいえるこの心理的反応を克服する技術的解決策はあるのでしょうか?  

また、メールでのやり取りよりも会って顔を直接見る方が、同僚の気分を把握しやすくなります。経営者と従業員の交流が正式な会議のみになりカジュアルなコミュニケーションがない場合、経営者はどの様にして従業員の感情を察知すれば良いのでしょうか?  

創造性はまた別の課題です。研究によると、同僚との短くカジュアルな「井戸端会議」は、新しいアイデ アを生み出し、生産性を向上させる上で重要であることが分かっています。このことは、大手技術系企業がコラボレーションエリアを備えたオフィススペースを意図的に設計することでも見て取れます。従業員が物理的に離れ離れになっている状態で、どうすればこれを実現できるのでしょうか? 

仕事以外でも、メンタルヘルスをサポートする為のより良いツールが必要になってくるでしょう。多くのジムが閉鎖を余儀なくされたことにより、ホームジムへの関心は300%増加しています。この傾向はパンデミック後も続くのでしょうか?またパーソナル化され、オンラインで繋がるといった様なホームジムが誕生する可能性はあるのでしょうか? 

ギャップを埋める技術  

テレビ会議サービスはもはや日常的なツールで、2020年3月には毎日2億人以上がZoomを利用していました。世界中のロックダウンが終わりを迎えれば、この数字は続かないかもしれません。Zoomを使う場面が多くなり、直接の面会が必須とされる場面にも置き換えるられる様、機能性向上への期待が高まるとみられています。また、生産性向上アプリとの連携も必要です。インテリジェント音声認識やバックグラウンドノイズキャンセリングなど、会議室を想定して開発された機能は、今後従業員の自宅で起こりうる様々な状況に対応できるようになるのかもしれません。 

最近聞かれるZoomやその他のソリューションにおける安全性への懸念は、多くの経営者にとってデジタルセキュリティを強化する必要性を浮き彫りにしています。自宅からビジネス環境へのアクセスと新しいソフトウェアプラットフォームの迅速な導入では、様々な要素でセキュリティを確保する必要があります。中でも、デジタルアイデンティティが問題の中心です。誰が文書に署名したのか、正しいメンバーに会議へのアクセスを許可したのか、明確にする必要があります。有効なソリューションとして、多要素認証が挙げられます。長期的な解決策としては、自己主権型アイデンティティが挙げられます。NPO法人ソブリン・ファウンデーションのような活動は、人々が自身のデジタルアイデンティティを管理し、様々な組織と異なるレベルの関わり方ができるようにするプラットフォームの開発を模索しています。この技術はまだ確立されていませんが、実現すればプライバシーとアイデンティティのバランスをとる興味深いソリューションとなる可能性があります。 

VRはより豊かな繋がりを実現できる可能性があり、各分野で研究が続けられています。メンタルヘルスの分野では、不安症や恐怖症の治療に使われていますが、リモートワーカー向けには、よりパーソナライズされた効果的な体験を提供することもできます。またVRとXRを利用することで、チーム間でのコラボレーションを促進することも可能です。一例を挙げると、Seymourpowell社はReality Works という複数のデザイナーがリモートで共同作業できるシステムを開発しました。このシステムにより、リモートワーカーは離れている同僚との一体感を高めることができるのです。 

HaptX 社などが開発している、より没入感のある感覚体験を可能にする触覚ウェアラブルは、将来的にはトレーニングやデザインの分野での利用が期待されています。もうひとつ感覚を追加することで、家族や友人とのビデオ通話におけるパーソナル化や感情の質を高めることができるでしょう。 

コラボレーションは続く

仕事やレジャーでの習慣は劇的に変化していますが、これは段階的な変化ではなく、加速を伴った変化です。生産性と心の健康を維持するための優れたツールが必要とされており、社会がロックダウンから脱却した後も重要なツールとなります。ケンブリッジコンサルタンツは、パンデミック後に何が必要とされるのか、そしてどのような技術に注目が集まるのかをより深く理解するため、お客様や社内でのコラボレーションを続けて参ります。本トピックにご興味がございましたら、お気軽にお問合せください。  

 

執筆者:

エイジェイ バン ボクホーベン

産業&コンシューマ事業本部
戦略的イノーベーショングループ
グループリーダー
 

戦略的イノベーショングループ・リーダーとして、イノベーションマネッジメントおよび新技術の事業化プロジェクトを専門とし、技術コンサルティング業界において20年以上の経験を有する。

Author
AJ Van Bochoven
Head of Strategic Innovation

As Head of Strategic Innovation, AJ brings more than 20 years experience in technology consultancy, specialising in R&D management and technology commercialisation projects.