ケンブリッジコンサルタンツで働くメリットのひとつは、生物経済学に最も精通している同僚と様々な考えや意見の交換ができることです。SynBioBetaネットワークメンバーとの協業はその良い事例で、「生物学を活用し、より良い、そしてより持続可能な世界を構築する」という共通の情熱を持った独創性に富むイノベーターや投資家、エンジニア、起業家の皆様の誘致に成功しています。 

バイオデザインビジネスの構築 

サンフランシスコで開催されたSynBioBetaグローバル合成生物学サミットで、私はパネルディスカッションの議長を務めました。それは大変名誉なことであると共に、新たな発見に満ちた素晴らしい経験でもありました。合成バイオが消費財、食品、農業、医薬品、化学物質などに対して、革新的な発展をどう続けていくのかという議論のため熱意ある参加者が集まっており、シリコンバレーからの期待に応えられる話題を提供しなければと、身が引き締まる思いでした。 

バイオ製品の市場投入に伴う重要な課題に対し、私の考える最善の対処方法をお話しました。私が重要と考える3つの主要な特性(忍耐力、柔軟性、実行)に話がいたると、市場での成功のためにあらゆる手段をお考えの皆さんから共感を得たようでした。ベイエリアで最新のカンファレンス会場であるSVN Westで行われた具体的な議論の中で、私は最先端の化学物質と素材の事業化をより焦点としたいと考えのです。  

技術を上手く事業化へ繋げたいと願うイノベーターが直面するジレンマについて、まずお話しました。それは、合成バイオの力を利用して前例のない斬新な製品を創造するのか、それとも既に事業の仕組みが確立されている既存の製品の代替品を作成するのか、どちらが最善の選択なのかというものです。 

デュポン社の規制科学・アドボカシー部門のグローバルリーダー Vince Sewalt氏は、ビジネスにおけるチャンスと落とし穴に精通した経験豊富な専門家です。彼いわく、革新的な破壊的テクノロジーと、いわゆる漸進的なテクノロジーの改善のどちらかを選ぶということではなく、その両方を目指すことができるというのです。 

「創業直後は、破壊的テクノロジーを見出しその分野を追求するかもしれません。しかしその後、合成バイオのサイクルであるDBTLサイクル(Design(設計)⇒ Build(構築)⇒ Test(評価)⇒ Learn(学習))の通りとなり、再設計することになるでしょう。37年前にジェネンコア社を創業した際、既存の発酵技術に当時非常に革新的だったバイオ技術を融合させ、化学物質や酵素の生産を拡大しました。」とSewalt氏は述べています。 

「もちろん、多くのチャネルパートナーと協業しました。チャネルパートナー選びは非常に重要ですが、幸い良い出会いにも恵まれました。その後もより大きな企業複数からオファーをいただき、最終的にデュポン社が我々を買収することになったのです。現在、工業用酵素など弊社の製品の多くはDBTLサイクルを通じて改良を続けることで、多くのお客様の多種多様な条件を満足することができます。」とSewalt氏は続けました。 

既存製品の代替  

Ecovative Design社はニューヨークを拠点とし、高機能で環境に配慮した新素材の開発と発展に重点を置いている企業です。共同創設者 兼 事業開発ディレクター Gavin McIntyre氏は、既存の製品からシフトする場合は、顧客が不満を感じていた課題の解決にフォーカスすべきと助言しています。それはつまり、新しい物を受け入れることへの抵抗を克服しなければならないということです。 

「既存の素材を見てみると、既存のサプライチェーンや、既にその素材を使用している製品が存在します。小規模企業が既存の素材を見直す場合、検討すべきは価格だけでなく、サプライチェーン全体なのです。つまり、新規参入企業の場合、既存テクノロジーと比べて流通規模が十分でない可能性が高いからです。」 

McIntyre氏はEcovative社の主要なバリュープロポジションが、従来の化学や低分子発酵とどのように差別化されるかを例として挙げました。彼のチームは低分子を作るだけでなく、皮下に組み込むことがで最終製品となります。プロセス全体を短くし、より多くの価値を提供することが可能なのです。 

Procter & Gamble (P&G) 社のオープンイノベーションマネージャー Amy Trejo氏は、テーマをさらに展開し、より大規模の視点を加えてくださいました。彼女は、P&G規模の事業では、既存の材料を生物バイオ素材に替えることはさらに難しいという見解を示しました。とはいえ、消費者が新しい素材に対し非常にオープンであるため、新製品が必要な価格プレミアムを付加できる可能性がある分野はまだあると思われます。 

パフォーマンスがもたらす利点  

Trejo氏は「消費者はパフォーマンスに非常に左右されていると思います。私が合成バイオを素晴らしいと思うのは、既存の素材では不可能な新しいことにチャレンジができる機会があるからです。ですから私たちは、ただ単に既存の素材の代わりに使用するのではなく、合成バイオ素材から得られるパフォーマンスがもたらす利点に焦点を当てたいと思います。」と述べています。 

米カリフォルニア州Geltor Inc.社は、プレミアム戦略の魅力に注目しました。生物情報を利用した発酵プロセスにより、消費者向けの高機能タンパク質を生産するという画期的なアイデアに注力しています。CEO Alex Lorestani氏は、スタートアップ戦略として“背伸びをして”P&Gのような大規模企業のスケールで事業展開することを提唱しました。  

「そうすれば、収益を早期に生み出す方法を見出すことができ、ビジネスの基盤を構築することができます。そして技術的な優位とともに早期参入し、スタートアップ独特の利点ともいえる有利なスタートが切れます。その後、大企業と提携しその規模メリットを活かし、さらに事業を展開します。」 

事業提携にはメリットが多くありますが、バランスを保つため、デメリットについてもTrejo氏に具体的に尋ねました。彼女は、大企業が時期尚早に関わり、成分など具体的な成果が見えないことに対してゆっくりと待つことができない危険性について警告してくださいました。 

「成長途上の小規模企業と時期尚早に協業した結果、やや苦しい局面に立ったことがありました。その経験から学んだことは、企業が少し成長した後に、ようやく何らかの取引関係を持つことができるようになるということです。素材が完成しており、いくつか製品に組み込んでみたり検証や実験をすることができる、その段階で関わることにより、より多くの成功の可能性が高まります。」 

財務健全性の確保  

デュポン社 Sewalt氏は、自身の経験に基づき、新しいアプリケーションで破壊的テクノロジーを開発する際に、信頼できるチャネルパートナーを持つ重要性について力説しました。「実際に製品を開発し、すべてのマイルストーンを満たせば、実際に市場投入が可能かどうかという不安要素は取り除くことができます。そのため、当時P&G社とのパートナーシップは功を奏しました。実際、彼らは私たちの研究開発プログラムの大半に資金を投入してくださり、その結果、私たちは財務の健全性を長期間保つことができたのです。」 

今回のパネルディスカッションでは、スタートアップや小規模企業がビジネスパートナーを探す際には、タイミングが全てであるという結論に達しました。大企業との関係をできるだけ早く構築したいと思っても、そのはやる気持ちを抑え、決定を遅らせることが賢明かもしれません。 

McIntyre氏も同意見です。「パートナーシップの決定を遅らせるという点では、テクノロジーの成熟度と事業計画が重要です。一方通行ではなく、そのパートナーと組むメリットが何なのかという点も重要です。また、特定の市場セクターの単純な理解だけではなく、その市場における特有のニーズと確認事項を理解し、製品開発を加速する、もしくは市場競争力の強化につながる事項についての相互理解が鍵と言えます。」 

McIntyre氏の知見豊かなアドバイスと共にディスカッションは終了しました。バイオイノベーションにおける商品価値を高める為に必要な繊細なアプローチについて、多くの示唆とインスピレーションに富んだ議論でした。今回のトピックやライフサイエンス・ヘルスケア業界におけるアーリーステージでの事業化に関するご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。 

 

執筆者:

ジェームス ハリナン

メディカルテクノロジー事業本部 合成バイオグループ

ライフサイエンス・ヘルスケア業界において合成バイオを専門分野とし、最先端技術の事業化に従事している。

Author
James Hallinan
Head of Business Development, Bioinnovation

James specialises in bioinnovation and early-stage technology commercialisation across life sciences and healthcare