新型コロナウイルス感染症によるグローバルサプライチェーンや労働環境の混乱の中、オートメーションはより注目を集めています。パンデミックの余波を最小限に抑えるために不可欠なオートメーションをいち早く実装するには、何が必要なのでしょうか?

危機の中、様々な組織が限界を超えたスピードでソリューション開発を行った事例に元気付けられました。ケンブリッジコンサルタンツが貢献した 人工呼吸器開発プロジェクト も、感動を呼んだプロジェクトの一例です。しかし、限界を超えたスピードは持続可能なものではありません。世界中のロックダウン解除後、「ニューノーマル(新常態)」における開発体制に合わせた、新しい手法が必要になってくるでしょう。

「仕事」「健康」「流通」「レジャー」への影響および対応策を、 新型コロナウイルス感染症協調対策の一環 としてまとめました。パンデミックの影響は広範囲に及び、労働者、特に季節労働者はロックダウンにより深刻な影響を受けています。収穫作業を例に挙げると、イタリアの農産物は 37万人の主に東欧出身の外国人季節労働者, により収穫されています。しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止のための移動制限が課せられている今、ギャップを穴埋めするための労働力が大幅に不足しているのです。. 

打開策を求めて

労働力不足問題がさらに厄介なのは、他のリモートワークが可能な職種よりも新型コロナウイルスへの感染リスクが高いにも関わらず賃金は低いことですが、現在は飲食店などからの転職者によってある程度解消さられています。ソーシャルディスタンスの確保もまた、オートメーション化を模索する理由となっています。ロックダウンが解除されても、タクシーやウーバーなどは消費者からの信頼回復には、まだ相当の時間がかかることは明らかです。消費者の関心は、衛生面や清潔さに大きくシフトしていくことになるでしょう。

オートメーションは衛生面の向上に役立ちますが、現実世界の「特殊なケース」でも問題なくAIが動作するには、数千時間ものトレーニングが必要となります。 2018年ウーバーが自動運転中に起こした事故 は悲劇的な一例で、明かりが少なく、とてもゆっくりと歩いていた、また自転車を押しながら歩くシルエットが想定外だったなど、いくつもの要素が重なり事故につながってしまいました。幸いにもこのような特殊なケースは稀ですが、稀であるが故に実際に路上で起こりうる不確実性への準備不足の要因となっています。

現実世界をシミュレーション

仮想学習環境(Virtual Learning Environment / VLE)と呼ばれるコンピュータシミュレーションを用いて現実世界をバーチャルに再現することが、不確実性への対応に有効と考えられます。現実世界向けの強化学習(Reinforced Learning /  RL)エージェントを、全てシミュレーションにてトレーニングすることができるエンジンです。自動運転の場合、風景や道路を詳細に描写する形式で現実世界での状況やシナリオをシミュレーションし、トレーニングを行うことができます。

マサチューセッツ工科大学の研究者は、VISTA Virtual Image Synthesis and Transformation for Autonomy, という、実際の運転データから作成された写真のようなCG画像でランダムなシナリオを合成できるシミュレーターを開発しました。実際の運転データを用いることにより、すべてレンダリングされたシミュレーションに比べて、より写実的な状況を作り出すことが可能となります。

自動運転をサポートするのは、現実のデータだけではありません。ネットワークをより迅速かつコスト効率よくトレーニングするための Playing for Benchmarks という公開データセットがあり、写実的な運転シナリオを合成するため、Grand Theft AutoというビデオゲームのCG画像を組み合わせています。現実世界でのトレーニングには劣りますが、データのタグ付け作業を省くことができる利点があります。ゲーム環境はそもそも全てゼロから作られているため、車、街路樹、歩行者などオブジェクトには全てラベルが付いていますので、時間のかかるタグ付け作業を省略することができるのです。

人間の能力を拡張

シミュレーションは季節性のある産業にも有用です。例えば農業では、新しい手法を試すことができる期間は限られていますので、開発サイクルは長くかつ遅くなってしまいます。仮想学習環境を用いることで、四季の移り変わりによる問題を回避し、農業機器や農業技術の進歩をもたらすことが期待されています。

農業シミュレーションにおける大きな課題として、自然と対峙することによる不確実性も忘れてはいけません。種子の種類、土壌、天候変化、肥料、害虫の発生源、殺菌など、数多の要素を全て考慮する必要があり、更には、シミュレーション条件の設定パラメータや相互依存性を分かりやすく提示する必要もあります。

農産物の収穫など完全にはルーティン化されていない作業における労働力不足を補うには、オートメーションに加え、人力の拡張も有効です。以前の記事でも、 同様の作業に伴う課題を取り上げ ました。現在、多くの企業が課題解決すべく取り組んでおり、人間拡張は農業技術の域を超え、包装や配達などソーシャルディスタンスと労働力不足の影響を受けている多くの業界への応用も期待されています。

ロボットがルーティン化された作業を処理できれば、人間はより複雑な特殊作業にフォーカスすることができ、少ない労働力でもより多くの作業をこなせます。人間の仕事はより知的刺激に満ち、生産性を高め、かつ潜在的な労働不足を解消する役割を果たす可能性もあるのです。

共に議論を深めるために

ソーシャルディスタンスは引き続き必要ですが、オートメーションと人間拡張は少ない労力でより多くの仕事をこなすことを可能とし、人と人との接触回避にも役立っています。しかし、短時間で実装するためには、高度なシミュレーションが必要不可欠です。オートメーション化するタスクは、作業環境の不確定要素に合わせて慎重に選択しなければなりません。

ケンブリッジコンサルタンツは、ポストコロナの世界において何が必要とされるか、そしてどのようなテクノロジーがそのニーズを支えていくのかを模索し続け、お客様との連携や社内コラボレーションに努めています。本件に関しご意見やご質問などがございましたら、 こちら までご連絡ください。

Author
ニール モトラム
産業&エネルギーグループ グループリーダー

産業&エネルギーグループのリーダーを務め、意欲的な企業に対して革新的なテクノロジーやビジネスプロセスを用いた新たなビジネスチャンスの提案に従事している。