ディープテックイノベーション戦略によるテレコム業界の革新

作者 ドクター デレク ロング | Jan 29, 2025

テレコムは、運輸、エネルギー、医療、教育などと並んで、現代の社会生活の基盤になっているインフラストラクチャ・ネットワークの1つです。この数十年間に、コネクティビティは固定の地点間通信からパーソナルなモバイルデバイスへ、そしてクラウドベースのサービスへと移行してきました。今、その次のパラダイムシフトが発生しており、サービスや情報にとどまらず、インテリジェンスにも、ネットワークでどこからでもアクセスできるようになろうとしています。

コンシューマー部門ではこの将来を表現するために「エージェンティックAI」という言葉が作られていますが、これは企業にも適用できるものです。どのような場所にいても、エージェンティックAIのインテリジェンスにアクセスが可能で、これは自律的にアクションをとり、リアルタイムで適応してコンテキストと目的に基づいて多段的な問題を解決する高度なシステムです。

自律的な接続ネットワークは、高度なAIを実現する手段であると同時にその応用でもあり、それ自身で判断を下し、障害を予測して予防し、カスタマイズされた質の高いエクスペリエンスによって利用者を引きつけます。多くの人は、その新しいビジネスチャンスが来るのは確かだとしても、1つだけ重要な質問が障害だと言います。それは、「どうすれば成功を確信できるか」ということです。

この先のテレコム革命を切り開くにあたって、意欲を持つテレコムのリーダーが注目すべき主要な5つのディープテック領域を特定しました。

  1. AIによる人間の能力拡張
  2. レベル3を超える自律ネットワーク
  3. 非地上系ネットワーク
  4. 最先端の情報処理
  5. 次世代無線ネットワーク

AIによる人間の能力拡張

人工知能(AI)には、人間の行為を拡張し、テレコムの将来を推進するような驚くべき力があります。

テレコムネットワークでは膨大な量のデータが発生します。このことは課題でもありチャンスでもあります。その膨大なデータセットを活用してリアルタイムの分析情報を生成し、ユーザーエクスペリエンスを改善し、スマートな判断によって環境への影響を提供しながら成長を得るには、どうすればよいでしょうか。

その答えは、AI応用の意思決定を活用することにあります。これは、テレコムネットワークの運用を変革するディープテックのアプローチです。高い可用性や信頼性が重要目標であるネットワーク運用センターを例に取りましょう。チームに与えられたタスクは、複雑なネットワーク環境をモニターし、環境変化にリアルタイムで応答して管理し、サービス品質の低下を防止することです。

私たちは、数百万のデータポイントを処理できる複雑で動的な環境に対応したニューラルネットワークを設計しました。また、リアルタイムの戦略的ゲームモデルを使用して、ユーザーの行動を予測し、リアルタイムで反応する方法を示しました。本質的には、AIが混沌とした状況を分析し、明確で効果的な意思決定を下す方法を実証したのです。

AIエージェントは、パターンや行動、傾向を理解することによって、ある顧客が次にどのような行動を取るかを予測し、どこでネットワークのボトルネックが発生しそうかを予想し、優れたエクスペリエンスを提供する方法を示すことが可能です。

レベル3を超える自律ネットワーク

ネットワークがさらに複雑になっているため、コストが増加し、管理や制御がより難しくなっています。これに対する回答は、リアルタイムで動作する高度なAI応用の分析ツールを使用して自律性を実現し、従来よりも高速かつ正確にネットワークを最適化することです。

自律性のゴールは、ボトルネックを予測し、自己組織により性能を最適化し、自己修復することです。その実現のためには、AIと機械学習のモデルの学習に、実世界の履歴データやシミュレーションを使用する必要があります。運用とリソースについて、効率、優れたエクスペリエンス、収益拡大を実現するには、後者が唯一の手段となります。

ケンブリッジコンサルタンツが取り組んできたAI活用の革新プロジェクトには、以下のような例があります。

  • 構造化されていないメンテナンスログやサポートログをAIで根本原因分析
  • AI特性評価によるフェーズドアレイアンテナのmMIMOのエレメント故障に対する補償
  • モバイルネットワークのセル負荷の予測によるRANのエネルギー節約や、標準的なネットワーク性能指標を使用したエクスペリエンス品質のAIによる推論
  • ニューラルレシーバーの性能最適化
  • 多様な産業分野での合成データによる予測デジタルツインを使用したプロジェクト。AIの開発の高速化、実世界でのデータ収集のコスト低減の効果があり、複雑なシステムでの最適化が可能

非地上系ネットワーク

NTN(非地上系ネットワーク)の発展により、地上系ネットワークでは対応が困難であったグローバル接続性の空白が埋められています。NTNを理解し、ここに投資すべく今行動することが、5G以降の可能性をフルに活用するために極めて重要です。

NTNは、衛星やHAPS(高高度プラットフォーム)、UAV(無人航空機)を活用して、従来の地上系ネットワークでは実用性や収益性に問題がある地域で接続性を提供できます。遠隔地や低人口密度の地域、あるいは海上でも、ブロードバンドや緊急通信といった必須サービスを提供できます。広範なテレコム戦略の中にNTNを統合することにより、場所を選ばないカバレッジを確保できて、新しいビジネスモデルや革新的なソリューションが可能となります。

ケンブリッジコンサルタンツは、テレコム業界におけるNTN(非地上ネットワーク)変革を実現するためのさまざまな技術に取り組んでいます:

先進的なフェーズドアレイアンテナ:ビームフォーミング機能の改善によって、D2D(デバイス間)通信を改善できます。こうしたアンテナは、スマートフォン、IoTセンサー、ネット接続車両など、幅広いコンシューマー機器での高速データ通信に必須です。

ISL(高速光衛星間リンク)の配備:レジリエンスとバンド幅容量が大幅に伸長し、RF周波数帯を確保する必要がありません。また、衛星間や地上ステーションとの間の接続を常時維持することの難しさが軽減され、特に海上や人口密度が低い地域で有用です。

AIを使用したネットワークの最適化と自動化: 自律的なAI駆動のネットワークによって、軌道上の衛星でリアルタイムなデータに基づいた自律的な判断が可能となり、運用効率が向上し地上ステーションへの依存が低減されます。

量子技術: NTN分野のプレイヤーは、量子技術の研究開発をいま始めることで、業界のリーダーとなることができるはずです。当社はすでに、次世代のLEO衛星における量子技術応用について検討しています。現在の重点は、量子ネットワークと冷原子による慣性センサーによる衛星通信、位置決め、軌道制御の改善と、それによる精度と効率の向上にあります。

最先端の情報処理

テレコムネットワークではここ数年間仮想化に向けて動いてきていますが、依然としてインテル(x86)プラットフォームへの依存は続いています。その他のメーカーからの最近の発表から、ネットワークのレベル1の計算レベルでの競争が発生していることが分かります。Intel x86 CPUの代替となる、エネルギー効率が高いARMベースのアーキテクチャが現れてきています。その中には、NVIDIA Grace、Ampere、AWS Gravitonなどがあります。

アーキテクチャとテレコム市場におけるビジネスのパワーバランスについて、数年ぶりの大規模な変化が発生しようとしています。ケンブリッジコンサルタンツのチームは、オペレーター、機器メーカー、半導体企業と協業して、この機会を活かすべく取り組んでいます。その中には、移行を実現するための先進命令セットに関するARMとの協業や、AIファクトリーの構築法を含むAIアプローチについての主要テレコムオペレーターに向けてのアドバイスなどがあります。

次世代無線ネットワーク

現在もアンテナ技術は接続性の世界を大きく変革しています。デジタルビームフォーミングやユーザーエクスペリエンスの改善から、環境の変化に対応したAIによる故障補償まで、QoE(エクスペリエンス品質)やエネルギー管理を再定義していくようなディープテック機能が数多く存在し、長期的な事業の成長加速に寄与します。

この領域でのイノベーションができないオペレーターや機器メーカーは、QoS(サービス品質)、QoE、NPS(ネットワーク性能スコア)の改善において競合と並ぶことができないでしょう。

主なイノベーション領域としては、高度ビームフォーミングと超マッシブMIMO(Multiple-In Multiple-Out)の階層化によるエアインターフェースの容量最大化が挙げられます。また、新規部品によって、より長距離で効率が高いプロトコルが(NTNで)使用可能になります。ケンブリッジコンサルタンツは、世界初となるFDDミリ波機能がある平板型フェーズドアレイアンテナを開発しました。FDD動作用に2つの別々のパネルを使用する必要がなく、低レイテンシのリンクを実現できます。

デジタルツインとは、高精度で作られた現実の物理システムの仮想モデルです。このシステムを使用すれば、システムの挙動をリアルに予測し分析することができ、RANについてカバレッジ、信号品質、運用効率、ベースステーションの配置などの最適化に活用できます。

こうした世界を変革するテクノロジーの詳細と、それがテレコム分野における成長にもたらす効果についてご検討いただくために、未来を掴む:5つのディープテック分野で獲得する長期的成長 をお読みください。 未来を掴む:5つのディープテック分野で獲得する長期的成長 をお読みください。

5 Deep tech areas driving long term growth

専門家

シニアバイスプレジデント・テレコミュニケーション | プロフィールを見る

テレコム&モバイル分野を担当、通信事業者やインターネットサービスプロバイダーのみならず装置ベンダーや部品メーカー向けに最先端の通信技術を活用したブレークスルーイノベーション実現の支援している。モバイル分野において20年以上の経験を有し、多国籍企業において様々な上級管理職を歴任、LTE-Aや5Gなどモバイルおよびブロードバンド技術全般の豊富な専門知識を有する。ブリストル大学、電気通信博士課程修了。

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