英国のエネルギー分野における量子コンピューティングの新たな脅威に対応するため、私たちが取り組んできた重要なプロジェクトにおいて、大きな進展がありました。今回は、その成果をご紹介いたします。ケンブリッジコンサルタンツは、National Energy System Operator(NESO)と共同で、リスクを特定し、優先順位に基づいた対策の立案を可能にする新たな評価フレームワークの構築を目指すプロジェクトを主導しています。量子技術に関する専門知識がなくても、サイバーセキュリティの専門家が活用できるインテリジェンスを提供するという、画期的な成果を達成しました。
詳細に入る前に、まずは昨年4月にさかのぼり、 本プロジェクトの背景をご案内します。この課題の本質は、量子コンピューティングの進展によって引き起こされるサイバー軍拡競争にあります。現在標準化されている暗号技術が無効化される可能性があり、エネルギー分野をはじめ、交通、通信、医療といった国家の重要インフラに深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。
このNESOのプロジェクトは、Network Security in a Quantum Futureと題されており、量子コンピューティングがもたらすリスクについての理解を深め、国家のエネルギー資産やネットワークを保護するための具体的な対策を検討することを目的としています。将来的な強化に向けた戦略と実行計画の策定も、重要な柱の一つです。
当社がウォーリック大学とエディンバラ大学のネットワークパートナーと連携して作成した提案が、英国の国家エネルギーシステムオペレーターであるNESOから高い評価を受けました。このアイデアは、Ofgem(ガス・電力市場局)が政府のイノベーション機関である Innovate UKと共同で運営する Strategic Innovation Fundからの資金提供を獲得することになりました。
私たちはまず、探索フェーズに着手しました。この段階では、量子コンピューティングによる脅威に関して既に明らかになっている知見を整理し、エネルギー分野における量子対応型リスク管理の方向性を検討するレポートを作成しました。その過程で、この分野において実務に活用できるツールがほとんど存在しないことが明らかになり、既存の学術的な論文では、異なる進行スケジュールの影響や改善策の仮説的な分析など、多くの不確定要素を柔軟に評価することが難しいという課題も浮き彫りになりました。
量子リスクへの対応と量子脅威のトラッキング
次のフェーズでは、2つの主要なアセットの開発に取り組みました。量子対応型リスク管理ツール(Q-ARM)と量子脅威トラッカーモジュール(QTT)です。これらのコンセプト開発は、量子科学、サイバーセキュリティ、エネルギーシステム戦略といった多様な分野にまたがる、ケンブリッジコンサルタンツの専門知識を結集することで実現しました。
QTTモジュールは、当社の幅広い量子技術の知見を基盤に、エディンバラ大学のパートナーから得られた優れたアイデアを融合して開発されたものです。これは、非常に優れたツールで、「脅威がいつ、どのように現れ得るか」を関係者が理解するために利用できます。一方、Q-ARMツールは、英国のシステム運用者の支援を主眼としており、ネットワーク内で脅威にさらされている資産の特定方法、量子技術によって可能になる攻撃の種類、そしてそれに伴うリスクのレベルについて分析情報を提供します。これらすべてが、誰にでもすぐに理解できる形式で提示されるのが特長です。
これらのモジュールを構築するにあたり、ユーザーが量子技術を理解していなくても、主要な機能を問題なく活用できるように設計しました。量子技術の詳細を意識せずとも、推奨される対応策が提示される仕組みになっています。このようなアプローチにより、新たに専門教育に投資する必要がなく、すぐにツールを活用できるため、業界にとって大きなメリットとなるはずです。
こうした機能は、新たな脅威に迅速に対応する必要性にも応えます。英国政府のNational Cyber Security Centreは、エネルギーシステムの重要インフラが2031年までに対応を完了することを 推奨 しています。このような強い要請がある中で、必要とされる転換を理解し、計画的かつ再現性のある方法で対応を進め、最大のセキュリティ課題がどこにあるのかをデータに基づいて把握するために、当社のツールが有効な手段となります。
コスト効率も、重視しているポイントのひとつです。今回のコンセプトは、エネルギー事業者が現実的な費用の範囲内で実施できるよう設計されています。リスクの高い領域を特定し、そこに的を絞って対策を講じることで、根本的な見直しによって新たな問題を引き起こすリスクを回避できます。
今後のプロジェクトフェーズでは、QTTモジュールとQ-ARMツールのさらなる開発を進め、英国のエネルギー分野のセキュリティ強化に一層の価値を提供できると確信しています。すでに、開発した機能を他分野での量子コンピューティングソリューションの検討に使用しており、これまでの取り組みで得られた知見や技術から当社の他分野での協業でも成果が生まれ始めています。 私たちが実現したアイデアを利用すれば、皆さまも、量子コンピューティングがもたらす「脅威」だけでなく「ビジネスチャンス」を理解し判断することができるはずです。
最新情報:ケンブリッジコンサルタンツはNational Cyber Security Centreから、ポスト量子暗号(PQC)に関するコンサルティングおよび技術サービスの認定を取得しました。このパイロット制度により、英国の重要インフラのPQCへの移行が2027年3月末まで加速されます。 この認定 は、当社がPQCに関するリスク評価、移行計画、戦略策定において高い専門性を有していることを示しています。
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