建設業界における自動化、さらにその先へ

作者 キエラン レイノルズ | 2023年1月12日

他業界がデジタル時代を機会ととらえ、新たなテクノロジーや技術、アプローチを活用しているなかで、建設業界の変革は後れを取っています。過去70年間で製造生産性は8倍、農業生産性は16倍に向上したという推定がある一方、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの2017年のレポートによれば、建設生産性はごくわずかな改善に留まっています。こうした現状をもたらしている要因がサプライチェーンのみでなく、規制的枠組みや請負構造にあることは周知の事実です。

とはいえ、建設業界には今、自動化や自律化の採用によりデジタルイノベーションを加速させる機会が多数存在します。人工知能(AI)やセンシング、低電力オペレーションの進展は、自動化、自律化テクノロジーの急速な進化の核となっています。膨大なデータの活用による人知の模倣を目的としたAI搭載システムにより、効率性や生産性のレベルを一変させるロボティックマシンや輸送機器ドローンが誕生しています。

こうした生産性改善への要求は2つの原動力と整合しています。それは、世界的な労働力不足と既存および新しい技術のさらなる進化です。これらはデジタルトランスフォーメーションソリューションの一環として活用すべき自動化、さらには完全自律化推進の機会をもたらします。

動的環境における自動化

しかし、ここで一点、明確にしておきたいことがあります。それは、自動化の導入には特有の問題が多く存在するということです。なぜなら、建設現場は様々な環境下にあり常に進化しているからです。つまり、既存の自動化の強みが機能しないということです。同じ手順をムラなく繰り返し行う退屈で反復的な作業は人間の代わりにロボットに行わせることは比較的簡単であるとする多くのシナリオが存在します。しかし、建設現場は常に変化し続けるという本質を持っています。つまり、自動化ソリューションには、一連のマニュアル作業を反復的に行うために機械を導入するということから、多くの場合、高度な柔軟性と適応性が求められることを意味しています。 

自律化が必要な活動の場合(すなわち、一連の複雑かつ相互依存的な作業の自動化がソリューションとなる場合)、高い費用効率手法で創出することが難しい動的環境に対処できる高度なソリューションが必要です。この問題を克服する手法の一つが、状況の変化に伴って高度化し進化する現場とその構成物のデジタル画像の作成です。

建設業界における自動化は他業界のように労働力削減につながる可能性は低いでしょう。むしろ労働力不足などの問題に対応する現場で働く人間を増やす可能性があります。また、自動化は危険な仕事や人間がやりたがらない仕事にも極めて有効で、これには現場作業員の負傷リスク軽減という付随するメリットがあります。当初、このレベルの柔軟性には作業員の監視が必要だと考えられていましたが、今後のデジタルエコシステムの進化とともに、いずれは、より多くの自律ロボットが幅広い作業を行うことになると考えられます。

モジュールのオフサイト建設というトレンドも加速しており、建設現場の複雑化の減少につながっています。例えば、英国A14幹線道路の改修計画、Skanskaのプロジェクト概要によれば、現場の複雑化を最低限に抑えるため、主要コンポーネントはオフサイトで建設しました。このアプローチでは、建設現場の詳細なデジタルマップが使用されています。マップはプロジェクトパートナー全員で共有され、建設計画における唯一の参照ポイントとして活用されました。その成果は明白で、同プロジェクトは予定より数か月前倒しで完了しました。

豊富なデジタル画像は欠かせない情報です。それらはもっとも基本的なレベルで建設環境に関わる共有図面となり、関係者全員の共通理解・認識を徹底するものです。いわゆるデジタルツインです。しかし、ビジネスチャンスは現場地図や計画のデジタル化および共有という基本的なデジタルツインアプローチに留まりません。フィジカルおよびバーチャル資産を活用した、より高度で接続されたデジタルエコシステムを構築することで、変化し続ける環境へのリアルタイムかつ動的な適応が可能になります。これには、ある時点で特定業務の効率を低下させる気象変動、またはリソースの再配置が必要となる納品スケジュールの予期せぬ変更が含まれる場合もあります。

デジタル/フィジカルエコシステム

私は「Common Operational Picture (COP)」と呼んでいますが、こうしたデジタル世界と現実世界の融合により生産性改善の大きな機会がもたらされるでしょう。デジタル画像は、さらに複雑な作業のシミュレーション、さらに建設に必要なあらゆるコンポーネントをもれなく確保し作業中の適切なタイミングで提供させるためのリソースストリームに関する計画立案にも活用できます。今やこうしたデジタルツインは、現実世界を正確に(または「同等レベル」で)再現し建設作業およびその他の様々な可能性をシミュレーションする高性能ツールとなっています。これには建設中のアセットの、まれではありますが(だからこそ検証が非常に困難な)、損害をもたらすおそれがある鉄砲水などの気象事象への対応の検証、およびそれに伴う効果的な災害対策の実現が含まれる可能性があります。

このように、コントロールできない建設現場の複雑な動的環境は、しばしば移動機側における自律的判断の障害となります。そうした課題の一例が、急激に変化する環境で独自に移動する多くのコンポーネントが関係する自動運転車両の経路探索です。これは、多くの市場セクターに影響を及ぼすという理由で、弊社が継続的に考察している具体的な課題です。  

弊社のソリューションは低コストのセンサーおよびデータ融合(最終的にソリューションの実装では費用効率の高さが求められるため)、そして現実世界の情報と高度化されたシミュレーション環境から得たデータの組合わせによって訓練された最新の機械学習アルゴリズムを組合わせています。このアプローチはコスト削減と開発スピード向上を両立させます。弊社の例では、複雑な現場における各種アセットの運搬を担当する人間サイズのロボットによる移動の高度化を目的としていましたが、ここでの原則・基準は建設現場で活用できる、より大きな自動運転車両にも応用できます。

以上をまとめると、自動化および自律化テクノロジーは急速に高度化しており、農業や物流などの業界におけるバックエンドおよびフロントエンド業務双方で活用されているトレンドでもあります。より柔軟な自動化ソリューションは人間が持つ能力の可能性を広げ、さらに高度化された自律化テクノロジーは、 建設現場のデジタル化と相まって、多大かつ明確な変化をもたらす日も近いと考えられます。

こうした変化をもたらすテクノロジーは、特定の対応が必要となりますが、建設業界に応用することができます。多大なメリットが見込めるなかで、建設業界のマーケットリーダーおよびそのサプライベースは業界におけるデジタル化や自動化への注力、投資を通じて競争優位を得る可能性があります。規制的枠組みや労働慣習の変革を推進することは、こうしたメリットの実現に寄与するでしょう。

本記事は、当初Construction & Civil Engineering magazine - Automation Foundationに掲載されたものです。

専門家

産業&コンシューマ事業本部 スマートインフラストラクチャ部 部長 | お問い合わせ
スマートインフラストラクチャ市場セクターのインダストリーエキスパート。戦略立案・顧客ニーズの実現・革新的なビジネスモデル開発・社会課題のソリューション開発を担当しており、技術開発・組織運営・プロダクトマネジメントにおいて15年以上の経験を有する。

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