今後の宇宙ビジネスに向けた国際連携

作者 サンドロ・グレック | 2025年8月18日

次世代の衛星サービスや軌道インフラ、気候モニタリング、宇宙状況把握など、宇宙には莫大なビジネスの可能性が広がっています。しかし、こうした取り組みの多くは、国際的な連携がなくては成り立ちません。この重要なテーマを加速させるため、当社は東京に主要なステークホルダーを招き、「実践的にはいかに連携すべきか?」という問いを投げかけました。

議論の場となったのは、アジア太平洋地域を代表する国際宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2025」です。ケンブリッジコンサルタンツで私が担当している領域でもあり、この地域には非常に注目していますが、イベントを通じて得られた知見と熱量には大きな刺激を受けました。日本の宇宙産業における目覚ましい進歩は、国内はもちろん、地域全体、そしてグローバルな舞台においても、確かな存在感を示しています。

急成長を遂げる宇宙ビジネスの中で最も魅力的な側面のひとつは、その可能性の広がりに限りがないことです。宇宙は、私たち人類の活動の多くに影響を与える存在です。宇宙によって可能になることがあり、宇宙を活用することでこれまで不可能だったことが実現しています。現在、衛星通信や衛星ナビゲーション、天気予報など、宇宙の役割については、一般的な認識も広がっていますが、急速に発展しつつある新しい応用分野については、まだ十分に知られていないのが現状です。

例えば、無重力環境では、化学反応や材料科学、生物学について地上とは異なる挙動が見られます。こうした特性により、宇宙は製薬業界における創薬・開発の実験拠点として注目されています。また、バイオ半導体を活用した微小重力下での人体の機能や疾患の研究も進められています。さらに、食品や美容製品の分野でも、宇宙製造技術を活用した新しい手法が登場しており、地上では再現が難しい微小重力や真空環境を活かした製造が可能になっています。

宇宙アクセスの民主化は、宇宙ビジネスの進展を支える重要な原動力です。数年前まで、宇宙への打ち上げには莫大な費用がかかり、政府機関や大企業しかアクセスできませんでした。しかし、再利用可能なロケットの登場により、数十万ドルで実験用のペイロードを宇宙に送ることが可能になりつつあります。今後、こうしたコストはさらに低下すると見込まれています。この変化を後押ししているのが、国家的な政府主導のミッションから、民間企業主導のミッションへの移行です。

国際宇宙ステーション(ISS)は、米国、ロシア、日本、欧州、カナダなどによる国際的な連携のもと、四半世紀にわたり地球低軌道上での科学研究と技術革新を支えてきました。しかし、ISSが2030年代初頭に運用終了を迎える見通しとなる中、その後継の役割を担うべく、複数の民間企業が本格的に参入を進めています。

こうした企業の一例がAxiom Space社です。同社からは、宇宙飛行士であり最高技術責任者(CTO)でもある 若田 光一 様SPACETIDEのパネルディスカッションに登壇しました。若田氏は、30年にわたり宇宙航空研究開発機構(JAXA)で活躍された経歴を持ち、宇宙開発が政府支援型の活動から民間によるビジネス開拓へと移行しつつある現状について言及されました。

若田氏は、国際連携のあるべき姿について自身の見解を述べられました。今後数年以内に予定されているAxiom社の新たな宇宙ステーションの打ち上げ計画について説明するとともに、インド、ポーランド、ハンガリーなど、各国の宇宙飛行士をISSに送り出す取り組みに関わった経験についても紹介されました。さらに、今後の宇宙開発の成功には、技術革新を加速させるための強固な枠組み―すなわち、関係者が連携するエコシステムの構築が不可欠であるとの考えを示しました。

同氏の言葉によれば、「だからこそ、ケンブリッジコンサルタンツのような組織が、政府、産業界、学術界の橋渡し役となることで、今後直面する根本的かつ重要で困難な課題に取り組むために必要なリソース、人材、技術力を確保できるようになると考えています。」

英国と日本の宇宙協力

当社のAPAC地域統括責任者である マイルズ ・アプトンが、今回のパネルディスカッションのモデレーターを務めました。冒頭では、英国政府の科学・イノベーション・技術省で宇宙領域 国際・レジリエンス・規制担当 副局長を務めるTania Celani(タニア・チェラーニ)氏をご紹介しました。チェラーニ氏は、日英間における新たな宇宙経済における連携強化というテーマに賛意を示し、政府がどのように協力の枠組みを構築していくのかというマイルズの問いかけにも丁寧に応じました。

チェラーニ氏:「例えば、平和的な協力とデータ共有の基盤として宇宙条約があります。英国としては、国連の宇宙空間平和利用委員会でも非常に積極的に活動しています。各国が集まり、将来の宇宙における標準、ガバナンス、規制について議論する場です。ただし、私たちは常に見直しを続け、規制基準が目的に適しているか、そして技術の進展に対応できているかを確認する必要があります。」

今回のディスカッションでは、民間企業が主導しつつも、政府による枠組みが支える国際連携の重要性が議論の中心となりました。パネラーには、Space Compass Corporation社のVP戦略担当 山本 洋平 様Warpspace USAのCSO兼CEO 森 裕和氏Secure World Foundationの民間部門プログラム上級ディレクターの Ian Christensen(イアン・クリステンセン)氏 が登壇しました。クリステンセン氏は宇宙の持続可能性という極めて重要な課題を提起し、宇宙を利用する技術やサービスの恩恵を享受し続けるためには、グローバル社会として安定した宇宙環境を確保する必要があると強調しました。

今回ご紹介したのは、ディスカッションのごく一部にすぎません。ぜひ、以下の動画をご覧いただき、登壇者の皆さまが共有した多彩なアイデアやインサイト、革新的な取り組みの数々に触れてみてください。また、新たな宇宙ビジネスにおける国際連携やビジネス上の優位性に関する議論をさらに深めていきたいとお考えの方は、 ぜひお気軽にご連絡ください。皆さまと引き続き対話を重ねていけることを楽しみにしています。

専門家

テレコム・スペース事業APAC 事業責任者 | プロフィールを見る

サンドロは、ケンブリッジコンサルタンツの日本における大手企業や成長中のクライアントに対し、構想は容易でも実現が難しい課題に対するソリューションの開発を通じて、持続可能で競争力のある市場ポジションの確立を支援している。

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