新たな宇宙エコシステムとして注目される地球低軌道ビジネス

作者 ジョン タイービ | 2023年11月10日

米国政府機関は空を仰ぎ見て、この星でもっとも過酷で最遠方の環境でのオペレーションにおいて競争優位性を得ようと考えています。企業は高度な衛星コネクティビティの経済性を見直し、新たな宇宙エコシステムの構築に取り組んでいます。導入までには多くの課題を残しているものの、今こそ新たな機会を模索する好機が訪れているといえるでしょう。

本稿では、野心的な衛星イノベータにとって価値の有る ポテンシャルを秘めた新規テクノロジー分野を解説します。すなわち、高性能アンテナビームフォーミング、AIを活用した新規データの入手と分析、さらには量子分野です。とくに量子分野はこれまでにない高いレベルのセキュリティ通信を実現出来る可能性を持っています。

まず、コネクティビティの経済性から始めましょう。まさに今、LEO(地球低軌道)イノベーションが本格化しています。このムーブメントの推進役となっているのが、衛星打上げコストを10万ドル、あるいは100万ドル程度までに削減した再利用可能インフラというソリューションです。LEOコネクティビティという新たな世界は、公共、企業を問わず、いずれもが期待してやまない魅力的なサービスを実現させる可能性を秘めています。

宇宙経済学という新たな世界

衛星打ち上げビジネス」という新たな世界では、スペースXのロケット打上げのオンライン予約も可能です。地球低軌道では、衛星コネクティビティは地球上のどんな場所でも、高速かつ低遅延の接続を実現するポテンシャルを有しています。真の意味での遠隔操作のための信頼性の高いブロードバンドから、地球上でもっとも辺鄙な場所での大量のデータ収集まで、そのビジネスチャンスは無限に存在します。

こうした新たな領域の出現によって、様々なスタートアップが各種ユースケースのためにLEOへ衛星を打上げられるようになります。先ごろ、宇宙に特化したアクセラレーター・プログラムを主導するVCのSeraphim Capitalは、スタートアップを支援する宇宙投資ファンドを受け上場しました。ファンド内の企業は、新たな種類のデータの収集、宇宙から入手するデータに関わる斬新なアナリティクスソリューションなど、様々な魅力ある分野でソリューションを開発しています。

多くの組織が高性能コネクティビティの提供をめぐってしのぎを削っています。スペースXとOneWebはいずれも計画を発表していますし、AmazonとTelesatもこの分野に参入しています。新たなLEOコンステレーションの大半は農村部へのブロードバンド接続の提供を目指していますが、その潜在的価値の大半は有益な商用データを送信するためのコネクティビティソリューションである可能性があります。つまり、LEOコンステレーションはユースケースに応じて異なるコネクティビティ特性を提供する必要があるということです。

打上げインフラの変更はLEOブロードバンドコンステレーション開発の経済学に革新をもたらし、こうした新たな接続方式が可能になります。これまでは高コストを理由としてオペレーターが打上げられる衛星の数に上限がありました。しかし現在は遥かに多くの衛星を打上げることが出来、極めて重大なことに、衛星を頻繁に交換できるようになりました。衛星交換が低コストで可能になったことは、新規ネットワークの設計に携わるオペレーターにとって強力な原動力となります。

旧衛星を軌道から離脱させ、新衛星を打上げることによって衛星のハードウェアを定期的にアップデート出来るということは、地上のゲートウェイおよび端末装置だけでなく、コンステレーション内のシステムが定期的にアップデート可能であるということです。これにより、技術の進歩に応じたシステムレベルの向上、さらには特定の接続形式に対応してシステムの最適化が出来るようになります。

高性能ビームフォーミングアンテナを活用した小型低電力デバイス

それでもなお、オペレーターは依然、端末ハードウェアのコスト、サイズ、重量、動力(CSWaP)に関わる制約という課題を抱えています。現在、スペースXが展開するスターリンクコンステレーションの端末コンポーネントや製造コストは高額で、最終的には、ハードウェアについてはワンオフで、さらに有料サブスクリプションという形で消費者に転嫁されています。また、端末のサイズがアプリケーションの可能性に制約をかけています。しかし、完全な衛星ブロードバンドサービスを受信できるよう設計された端末が、携帯電話や小型センサーの大きさに最適化され、さらになお適切なコストで地球低軌道との接続機能が維持できるとしたら、どうでしょうか。衛星産業にとって、これは大きなビジネスチャンスです。先日のiPhone 14向けの緊急SOSメッセージ機能の発表など、フル機能への道のりは始まっており、技術革新がこうしたプロセスを加速させる鍵となっています。

こうしたデバイスに関する主な課題が、デバイス内RFの低電力化です。衛星との接続のための十分なリンクバジェットを維持しつつ、ユーザーにとっての安全性と電池による相当の可動時間の双方を担保するためです。その実現には衛星と端末デバイス、双方でのイノベーションが必要です。

衛星に関するイノベーション

成層圏の高高度プラットフォームからの5G電波送信用に弊社が設計したアンテナを介して展開される高性能ビームフォーミングは、このソリューションで大きな役割を果たしています。

数百本のビームを同時に送信できる新たな衛星アンテナテクノロジーにより、特定の方向に利用可能な電力を集中させる超ナロービームの生成が可能になり、さらには当該ソリューションの全体的な電力レベルを大幅に増大させることなく特定のユースケース向けの接続の最適化を可能にします。

デバイスに関するイノベーション

LEOの衛星コネクティビティに関するさらなる課題としては、移動する衛星の追跡やそれに対応するRFでのドップラー偏移の補正があります。地球上のある地点に対して固定されている静止衛星と異なり、LEO衛星は地上の端末と比較して非常に早く動きます。端末デバイスアンテナの別の衛星とのマルチビームコネクティビティに対応する能力は、より大きなデータスループットの実現および接続維持にとって、重要なイノベーションとなるでしょう。

低遅延通信にも寄与する高性能アンテナ

コンステレーションオペレーターは、CSWaPの良好なトレードオフを実現させつつ信頼性の高い低遅延通信リンクを提供できる手法で全体システムを設計する必要があります。この課題は、モバイル端末が通信リンクの両端で移動している場合、さらに困難になります。端末アンテナに関するイノベーションも解決策となる可能性があります。小型かつフラットパネル式の電子走査アンテナは端末のピッチおよびロールを補正する能力があり、これにより端末は極限状況下でも衛星を追跡できるようになります。これを実現させるためには、弊社が積極的に取り組んでいるR&D優先順位の高い開発分野である高性能RFとデジタル信号処理技術の組合せが必要でしょう。これは、現在商業利用できる技術では実現できないものです。

ここまで、遅延に影響を及ぼすのはデータの移動距離だけではないという通信および衛星システム(イリジウム向けを含む)の開発における弊社の取り組みをご紹介しました。データパケットのフレームサイズ、データ整合性技術、そしてもちろんセキュリティプロトコルを含むトランスポート層に関する原則はすべて関連しています。高度なデータ圧縮および最適化技術は、エッジでのデータ処理とともに、システムパフォーマンスの向上を実現出来るイノベーション機会です。

地球観測から得られる新たなデータ

スターリンクが他のメガコンステレーションが通信に革命を起こそうとしているのと同時に、新世代の地球観測衛星は打上げコスト低減の恩恵を受けています。新しいインフラの登場により、ますます多くの衛星を打ち上げることが出来るようになっており、多くの組織はまったく新しい視点から見る地球のどの様な新しいデータを収集出来るか検討し始めています。そして新規スタートアップ企業の多くは、どのような新しいデータを収集できるか、そしてそれらが提供できる洞察に注目しています。

例えば、Seraphimのポートフォリオに名を連ねる企業、Satellite Vuは、高解像度熱画像を活用したモニタリングサービスを提供しています。このサービスは、建物効率や原油パイプラインの流れなどのアセットモニタリングに活用されています。この種のセンシングは、衛星から提供される新たな情報をなくして実現しなかったことでしょう。

しかし、例えば、データはリアルタイムに近いものであるべきかなど、適切な解像度でのデータ収集および有効な期間内の送信を確実なものとするには、センシング技術やコネクティビティソリューションにはさらなるイノベーションが必要です。それには、ユースケースに応じて接続が適切にできるようにするためのコネクティビティレイヤーとの強力な統合が必要となるでしょう。これは、さまざまな分野にわたる専門知識を必要とするシステムエンジニアリングの問題になります。

AIがもたらす有益な知見

言うまでもなく、データ自体、そのデータが用いられた分析、そこから導かれた知見と同様の価値があります。そのため、新たな宇宙エコシステムでは人工知能(AI)や機械学習(ML)技術がますます有用な存在になると考えられます。企業は宇宙空間で独自に探し当てた有利な地点から、多くのデータを収集しようと衛星を活用しており、新たな、かつ高度な知見を得られる多くの機会が存在しています。

AIやMLを活用し、様々な衛星に搭載された各種センサーからのアウトプットを融合させることは、様々なユースケースに多大な価値をもたらすポテンシャルを有します。例えば、ChAIはAIと衛星画像や他のデータインプットなどのデータの融合による商品価格予測サービスを提供しています。Pixxelもハイパースペクトルイメージングを活用し、現在の衛星では対応できないとされる問題の発見を提案しており、そのデータプラットフォームからデータに基づき提供される知見はほぼリアルタイムのものとなっています。そして入手可能なデータを理解したうえで各種データセットから知見を導出できるアルゴリズムを開発することが鍵となります。しかし、これは新たなデータを収集し分析できる企業にとって、多大な価値をもたらすと見込まれる多くのケースの一つです。

繰り返しになりますが、これにはデータ収集からデータ伝送、データ分析にわたるシステムエンジニアリングの観点が求められます。宇宙ネットワークが他の種類のネットワークとどのように相互作用するか、データ処理をどこで実施するかという考察はすべて、宇宙へのアクセス増を活用するエマージングアーキテクチャにとって重要なポイントとなります。

量子で実現されるセキュアな通信

弊社の研究を詳しく知りたい方、またエマージングテクノロジーについて議論したい方は、私宛にお気軽にご連絡ください。我々のチームは、皆さんの夢の実現のサポートを目標としています。衛星、航空機産業、無人飛行航空機システムに関し、他の追随を許さない世界レベルの実績を有するケンブリッジコンサルタンツは、難易度の高いブレイクスルーを迅速にご提供できると確信しております。

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