量子センシングの斬新な発想を探る

作者 エドムンド オーウェン | 2022年10月10日

ケンブリッジコンサルタンツの量子物理学者として、私は量子コンピューティングの驚くべき可能性に大きな期待をよせています。量子コンピュータは、既存の技術よりも桁違いに優れた性能を発揮し、その可能性は想像をはるかに超えるものです。理論を実践に利用できるためのお手伝いができる機会があれば、喜んで参加したいとかねてから思っていました。キャップジェミニの仲間が、BMWグループの量子コンピューティング・チャレンジに私を誘ってくれたとき、二つ返事で参加を決めました。

BMWからは昨年の夏に最初の連絡がありました。BMWの長年のパートナーであり、実績のあるキャップジェミニの量子コンピューティング・研究コミュニティに、この挑戦への参加の誘いの声がかかったのです。世界的に有名な自動車メーカーであるBMWは、新しい量子の世界が形作られる中、主導的な役割を担い、Amazon Web Services(AWS)と協力して、クラウドソーシングでイノベーションを実現する取り組みを開始したのです。当社が参加した内容について、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

参加内容の詳細をお話するにあたり、このグローバルチャレンジには、量子を専門とするシリコンバレーのスタートアップ企業をはじめ、さまざまな企業から70を超える応募があり、私たちはその中からファイナリストとして選出されたことをまずはお伝えしたいと思います。私たちの革新的な量子センシングのアプローチに対して、量子コンピューティングチャレンジの審査員から特別な賛辞を頂きました。その内容についてこの記事で詳しくご説明します。また製造業の皆さまが量子技術活用のためのロードマップをどのように作成したらよいのか、今後のブログを通じて私たちの考えをお伝えしますのでご期待ください。

それではクラウドソースチャレンジの個人的な見解からお話したいと思います。実世界と関連性のあるユースケースを見極め、開発する上で私が優れた方法だと思っているアプローチについてです。すでに述べたように、量子コンピュータは、従来のコンピュータや「古典的な」コンピュータでは達成困難なことを実現する可能性を秘めています。この技術は急速に発展しており、BMWは、より大規模な量子コンピュータが利用可能になった場合、何が実現可能なのか理解している先駆的なグローバルプレーヤーです。量子コンピュータのプログラミングは、コンパイラを改良するような単純なものではなく、優れた性能を引き出すためにはアルゴリズムを量子コンピュータ専用に設計しなければなりません。 

不可能なことが可能になろうとしているのです。

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BMWは4つのユースケースを課題として設定し、その中からキャップジェミニは「自動品質評価のための機械学習」を選びました。私は、キャップジェミニの同僚とチームを組んで、画像認識に関する品質保証に取り組みました。最初のラウンドは、私たちが選んだユースケースに量子技術を適用するためのアイデアを提案することでした。ケンブリッジコンサルタンツとキャップジェミニは機械学習、量子技術、自動車の製造工程におけるの豊富な経験があり、こうした蓄積がBMWへの回答の中で発揮できると確信していました。

量子アルゴリズムへの包括的なアプローチ

車体の亀裂は車の性能に大きく影響し、製造工程の早い段階で発見しなければ、大きな代償を払うことになります。BMWは現在、生産ライン上で部品を選別するため、画像を使った最先端のML手法を活用しています。しかし、量子力学的手法では、この工程でどのような効果をもたらすのでしょうか?ML専門家のBarry Reese氏は、この問題を評価する私たちの研究内容について、以前の記事で述べています。この課題は、量子アルゴリズムの活用に非常に焦点を当てたものでしたが、私たちはより包括的でエンドツーエンドのアプローチを目指しました。亀裂の特定には、画像処理そのものだけでなく、生産ライン、データ取得、自動意思決定に関する画像の取り込みやセンシングも関係します。

私の提案は、将来を見据えたもので、量子効果を利用してセンシングと画像処理を高度化する多くの新しい技術から生まれたものでした。私が注目したのは、量子センシング技術を使った見えない部分への対応でした。埃や塗料の飛沫によって、従来のカメラでは鮮明な画像が得られない箇所の解決策です。単一光子検出を利用することで、LiDAR画像を撮影し、たとえ浮遊粒子で見えなくなっても、亀裂が生じたときにそれを特定できます。

また、量子センシングと量子コンピューティングを組み合わせた新しい可能性についても検討しました。量子コンピュータを使った画像処理では、データのアップロードが重要な課題となることは確かです。高解像度の画像には多くの情報が含まれています。そうした多くの情報のアップロードは量子コンピュータに転送する際の障害となります。この処理は物理的な原理に制限され、量子ハードウェアの開発計画から判断するとすぐに解決できそうにありません。(仮にそれが可能だとしても)。

この問題を解決するために、私たちは、量子コンピュータから量子状態を取り出し、それを量子センシングに利用することを提案しました。これは時代を少々先取りした考えですが、5~10年後には実現可能だと考えています。大規模な量子コンピュータを実現するためには、あるコンピュータから別のコンピュータに量子情報を転送することが必要です。そこで登場するのが、フライングキュービット と呼ばれるものです。私たちが提案したのは、この情報を運ぶ粒子を量子センサーとして利用することです。量子コンピュータの出力状態を検査中の部品に送信し、画像処理システムでその状態を部品に投影します。そして、部品の表面との相互作用によって、その部品の情報がフライングキュービットの状態に刻み込まれるのです。

ハイブリッドセンシング/コンピューティング量子アプローチ

この情報は、後処理の量子コンピュータに転送され、量子ニューラルネットワークを使って、部品に欠陥があるかどうかを処理することができます。部品からの情報を量子ネイティブな形でアップロードすることで、この量子センシング/コンピューティングハイブリッドアプローチは、メモリ帯域幅のボトルネックを回避することができます。 

クラッシックMLの世界的に認められた専門家であり、BMWと共有した量子MLモデルを構築したBarry Reeseを含むキャップジェミニチームと一緒に仕事をした事は素晴らしい経験でした。クリスチャン・メッツル氏 は、自動車業界での豊富な経験を生かし、様々な要素技術を統合し、プロジェクトを指揮しました。このチームは、画期的な量子MLモデルを開発するだけでなく、量子技術の応用を近い将来、実現する現実的な方法を見いだしました。これはモデルだけでなく、エンドツーエンドの品質保証プロセスを包含する総合的なアプローチによるものです。

量子技術はいつ実用化されるのか?

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量子力学応用ロードマップ(我々の挑戦とも関連する内容となります)に関するブログを今後リリースしますので是非ご覧ください。革新的な量子力学に関して議論をされたい方は、是非ご連絡 ください。皆さまとの会話を継続させて頂ければと思います。

 

専門家

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モデリングおよび量子システム分野のエキスパートで、機械工学・ソフトウェア・デザインなどケンブリッジコンサルタンツで他部署が有する専門知識と融合し新たな価値創造に取り組んでいます。特に、量子技術を応用した社会課題解決のソリューション開発に情熱を注いでいます。

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