ライフサイエンスにおける量子センシングの可能性

作者 エドムンド オーウェン | 2023年1月24日 | ライフサイエンス, 医療機器

画期的なイノベーションを生み出す複雑な糸を紡ぐことは、弊社の喜びのひとつです。私は、才能豊かでさまざまな分野のエキスパートと一緒に働いていますが、彼らは常に私にインスピレーションを与え、やる気を起こしてくれます。最近私が取り組んだ、医療における 量子センシング技術の未来を左右するプロジェクトは、その一例です。弊社は、社内で有する量子物理学や実社会における量子技術アプリケーションの知識と、医療分野に関する深い理解とを、うまく融合することができました。これは大変強力な組み合わせでした。

弊社は、今年初旬に量子センシング技術のリーディングカンパニーとして名高いスイスの Qnami社との協業を開始しました。同社の量子顕微鏡は、ダイヤモンド原子間力顕微鏡の先端に窒素-空孔中心(NVセンター)を組み込み、原子スケールで極めて高感度な磁場測定を実現します。

この技術は現在、研究開発に最も適しており、一部の産業用研究開発にも使用できます。しかし、Qnami社は、特にバイオメディカル分野において、そのNV磁力計が臨床的価値の提供ができ、新たなビジネスを生み出す可能性のあるアプリケーションの特定を求めていました。

もちろん、これは難しい依頼でしたが、ビジネスの現場に身を置く量子物理学者として、「もしも」という壮大な問いかけができるようになったことは、大きな励みになりました。個々のシナリオの妥当性についての議論はつきませんが、 量子技術の可能性からさまざまな仮説が立てられます。例えば、「量子コンピュータが、コスト削減や新しい病気の治癒率向上を実現しながら医薬品の臨床試験の成功をほぼ確実なものとすることができたとしたら」あるいは「 量子暗号化技術によって、医療データを完全に保護できるようになったとしたら」さらに「量子コンピュータが一人ひとりに最適な治療を提供し、治療効果を向上させることができるとしたら」といった仮説です。

量子効果によるセンサーの性能向上

量子効果を利用してセンシング能力を高めることで、センサーの性能を桁違いに向上させる可能性があることは疑いようがありません。この飛躍的な性能の向上は、ライフサイエンス分野をはじめ、さまざまな分野での新たな応用を可能にすると期待されています。ところで量子センシングとは一体何なのでしょうか?基本的には、量子効果を利用して、通常のセンサーではできないことを実現することです。例えば、通常の時計の精度は1日に1秒の誤差が生じる程度です。しかし、ルビジウム原子の基本的な特性に基づく原子時計は、何百万年に1秒の誤差という高い精度を実現します。他のセンサーも、その基礎となる研究の進歩によって、同様に優れた性能を発揮し、これまで実現できなかった感度と安定性での観測を可能とします。

この可能性を引き出すために、量子センシング技術は研究室での実証実験から、産業用途に適した強力な製品へと進化を始めています。しかし、初期段階でのアプリケーションは概ね限定的で、いつも研究開発用途に限られます。商用的に魅力的で、確実に普及させるためには、大きな価値を生み出す新しい量子センシング技術の市場機会を見つけることが重要です。

冒頭で述べたように、弊社はQnami社の依頼に対して、他社にはない独自のスキルセットにより対応することができました。すなわち、 量子センシングの理解、 医療業界における高度なノウハウと技術的な知見、そして 戦略的アドバイスを融合させたのです。また、社内や顧客に対する多くのプロジェクトを通じて、潜在的なアプリケーションや課題について前もって取り組んでいたことも助けとなりました。

Qnami社とのプロジェクトは、3つのタスクからなる市場機会の特定から始まりました。

不可能なことが可能になろうとしているのです。

 

まず、同社のコア技術をよく理解し、主要な機能特性を把握しました。次に、当社のエキスパートが、生体磁気イメージングのアプリケーションにおける潜在的なビジネスチャンス(すなわち、ライフサイエンスにおける課題を技術が解決できる可能性のある領域)の仮説を絞り込みました。最後に、最も有望な3つの分野について分析し、Qnami 社にとってのリスクとリターンの特性を理解しました。

このプロジェクトが、新たな技術を提唱し、先駆的な取り組みを進める弊社の実績に加えられることを誇りに思います。弊社は幅広い分野の専門スキルと量子物理学の包括的な理解により、ブレイクスルーを実現します。弊社には、その限界と克服方法も含め、量子センシングの原理を熟知した物理学者がいます。また、コストや性能に厳しい制約がある中で、どんな環境でも使える製品を開発することに精通したエンジニアがいます。そして、極めて複雑なデータを処理し、意思決定のためのわかりやすい知見に変換できる 、ソフトウェアや アルゴリズムの技術者が在籍します。

As I’ve already said, that’s a great environment to be a part of. Do email me if you’d like to discuss this topic, and if you have a moment please catch up on my recent article on the quantum sensing collaboration with Capgemini, part of the BMW Group Quantum Computing Challenge.

専門家

メディカルテクノロジー事業本部 上席サイエンティスト | お問い合わせ

モデリングおよび量子システム分野のエキスパートで、機械工学・ソフトウェア・デザインなどケンブリッジコンサルタンツで他部署が有する専門知識と融合し新たな価値創造に取り組んでいます。特に、量子技術を応用した社会課題解決のソリューション開発に情熱を注いでいます。

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